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ちょっと立ち読み
美しさ、それは発見するもの
──『美しいをさがす旅にでよう』


砂漠の美男コンテスト

 欧米の価値観をものさしにした世界規模のミスコンとは対照的に、地球上には民族独自の美意識を反映したローカルな美人コンテストもある。なかでも、西アフリカのサハラ砂漠の南縁に暮らす牧畜民ワダベ(ボロロ)が、年に一度行なうゲレウォルと呼ばれる美男コンテストは、民族の美意識をユニークな様式で表現したイベントである。
 ゲレウォルは雨季の終わりにあたる9月から10月頃に行なわれる。この時期、トゥアレグやワダベといった砂漠の民たちはニジェールのインガルという小さなオアシスの村にやってきて「クア・サレ」と呼ばれる一週間にわたる大きな祭りを行なう。美男コンテストは、この祭りの中で行なわれるイベントの一つである。
 ワダベの美男コンテストは、若者たちが美しさを競い合うことによって、若い娘たちに気に入られようとする、いわばお見合いパーティーだ。若者たちは顔に化粧をほどこし、さまざまなアクセサリーを身につけて着飾り、娘たちの前で、自分がいかに美しいかを誇示しながら踊る。娘たちは、踊りを見ながら、気に入った若者を選ぶのである。
 娘たちが若者を選ぶ基準は、ひとえにルックスのよさである。ワダベは西アフリカでも美男美女が多いといわれ、実際、彼らの社会でも美しさには大きな価値が置かれている。ゲレウォルは、そのワダベが青春のいちばん輝いている時期に、美貌を思いきりアピールして、女性を獲得するためのイベントなのである。
 ワダベの考える美しい男性には、きびしい条件がある。背は高く、スリムでなければならない。しかし、痩せすぎはだめで筋肉がきちんとついていなくてはならない。顔のつくりは左右対称であること、目は大きくまるいこと。鼻筋は長く、歯は真っ白で、均質に並んでいなくてはならない。これらにくわえて、美しく服を着こなすことができて、踊りがうまくなくてはならない。
 コンテストにあたって、彼らがもっとも念入りに手をかけるのは顔である。若者たちは手鏡を見ながら、額を広く美しく見せるために、生え際を剃り、顔全体に赤や黄色の天然のファンデーションを塗る。白目と歯の白さが強調されるように、眉と目のまわりと唇は炭で黒く塗る。顔を左右に二分するように額から鼻筋、あごにかけて白い線を引いたり、頬に白い点で模様を描くこともある。
 顔のメイクができると、首にお守りや十字架などのネックレスをかけ、色とりどりのビーズで刺繍のほどこされたチュニックを着る。頭には白いターバンを巻き、ダチョウの羽をさす。そのほかにも、自分で工夫したアクセサリーを身につけたり腕時計をはめたりして、個性を出すのも自由である。帽子をかぶったり、色鮮やかなパラソルをさしたりする者もいる。こうして着飾ったワダベの若者は男性的というより、女性的な印象を与える。仕上げとして香水をふりかけるのも忘れてはならない。
 午後日が傾きはじめる頃、彼らは黄金色の光で顔が美しく見えるように西を向いて、砂漠に横一列にならんで、歌に合わせて、ゆったりと体を揺らして踊る。できるだけ背が高く見えるように、上に伸び上がるように踊る。このとき目をなるべく大きく見開き、眼球を中央に寄せたり、ぐるぐるまわしたりするのを忘れてはならない。そして、白くて美しい歯並びがよく見えるように唇を広げて笑顔をつくる。目をぎょろつかせつつ、笑顔をつくるというのは、表情としてはきわめて不自然だが、この仕草がワダベにとって、もっとも魅力的だと見られている。  娘たちは少し離れたところから、踊りを見つめる。娘の中から選ばれた三人が審査員となって、だれがもっとも美しいかを決める。選ばれた者は、ほかのワダベたちからの賞賛を一身に集め、多くの妻をめとることができ、一族にとっても名誉とされる。
 ワダベにとっての美しさの条件は、大半のアフリカ人の体型からすると外れている。通った鼻筋や、大きな目、白い歯、背の高さ、スリムさ、淡い皮膚の色などは、どちらかといえば欧米人に近い美意識である。そうした美意識を理想とする尺度が、どのようにして生まれたのかはわからない。彼らは西アフリカに広く暮らしているフラニ人の系統だといわれているが、ワダベは、自分たちが白色人種の末裔だと信じているともいう。


美しいをさがす旅にでよう
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美しいをさがす旅にでよう

田中真知著

人はどんなときに「美しい」と感じてきたのか、なにを美しいととらえてきたのか。それは地域や時代によってどのようにちがっているのか。美のカタチから世界を見渡すガイドブック。
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