二〇〇七年一月の月曜日の朝、ニューヨーカーたちは硫黄や腐った卵を思わせる、ひどい悪臭で目を覚ました。まるで巨人が放屁して、それがロウワー・マンハッタンにじわじわと広がっていくかのようなにおいだ。あたりに漂うガスを、マスコミは「すさまじい」、「鼻の曲がりそうな」、「不吉な」などと表現し、そのガスのせいで学校やオフィスビルから人が避難する騒ぎになった。九一一の回線は混み合ってつながらず、通勤列車や地下鉄は運行を見合わせ、十人以上の市民が入院した。「ただの悪臭にすぎないかもしれない」ブルームバーグ市長は市民の動揺をしずめようと発言した。非難の矛先はニュージャージーにある化学工場に向けられた。天然ガスにガス臭をつけるためのメルカプタンという物質が漏れたのではないかと推測する者もいた。結局のところ、悪臭の原因は特定されなかった。
ぼくはその元凶となりうるものを知っている──ドリアンだ。
ドリアンは世界一強烈なにおいを発する果物である。四三種類もの硫黄化合物が含まれ、その一部はタマネギ、ニンニク、スカンクの肛門線からの分泌液と同じ成分だ。とげにおおわれたこの果物は、密閉された空間をことごとく汚染する。鼻を突くようなその臭気はオランウータン、トラ、ゾウといった動物を引き寄せる。熱帯雨林ならそれもけっこうだが、マンハッタンのダウンタウンとなると話は別だ。悪臭を発する、腐りかけたドリアンを詰めこんだゴミ箱ひとつあれば、ニューヨークの町は大混乱に陥るだろう。
話が大げさだって? マイアミ旅行から数か月たったころ、カート・オセンフォートとぼくはニューヨークにある彼のアパートで、ドリアンの試食会を開いた。ドリアンを割ったとたん、すさまじい臭気がどっと吹きつけてきたので、ひと昔まえのカセットテープの広告ではないが、髪を後ろになびかせ、椅子に必死でしがみついている自分の姿が頭をよぎった。中華街で買ってきた二個のドリアンはあまりにもひどいにおいだったので、宴会のあいだ、ビルじゅうがガス漏れを警戒して避難していた。ぼくたちは知らなかったが、ドリアンの悪臭は廊下をじわじわと進み、エレベーターシャフトを通ってほかの階にも広がっていたのだ。心配した住人たちは貴重品をもってタクシーでアップタウンへ逃れるか、角を曲がったところにあるデリで気をもみながら待機していた。ぼくたちが遅まきながら事態に気づいたのは、通報を受けた警察と電力会社の職員がガス漏れの場所を突き止めるために訪ねてきたからだった。
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フルーツ・ハンター 果物をめぐる冒険とビジネス アダム・リース・ゴウルナー 著/立石光子 訳 珍しい果物を求めて熱帯の国々へ。未知なる美味を紹介しつつ、果物をめぐる冒険と歴史、果物ビジネスの可能性、果物に取り憑かれた奇人との出会いを語る、美味しく読める一冊。 |



