彼とは五年ほど前に、バルセロナのタリェース通りにあるバルで知り合った。僕がチリ人と分かるとそばにやってきて声をかけ、自分もあの遠い国で生まれたのだと言った。
歳は僕とだいたい同じで三十過ぎ、酒を浴びるほど飲んだが、酔っ払っているところは見たことがない。名前はロヘリオ・エストラーダ。痩せ型で、身長はどちらかといえば低いほう、髪は黒かった。ロヘリオの笑顔は、驚愕と悪意の挟間で永久に止まってしまったように見えたが、時が経つにつれて、見かけよりもずっと純粋な男であることに気がついた。ある夜、僕はカタルーニャ人の友人たちとそのバルに行った。本の話になった。すると、ロヘリオが僕たちのテーブルにやってきて、今世紀最大の作家は間違いなくミハイル・ブルガーコフだと言った。カタルーニャ人の友人の中には『巨匠とマルガリータ』や『劇場』を読んだことのある者もいたが、ロヘリオはこの著名な作家のその他の作品を、十以上はあっただろう、すべてロシア語で挙げてみせた。僕たちは彼がふざけているのだろうと思い、すぐにほかの話題に移った。ある夜、僕はロヘリオから家に誘われ、なぜかは分からないがついていった。ロヘリオが住んでいたのはバルの近くの通りで、近所の子供たちが幽霊劇場と呼んでいる低級な映画館の目と鼻の先にあった。古い家で、部屋の中は備え付けの家具ばかりだった。二人で居間に落ち着くと、ロヘリオはレコードをかけて、どんどん盛り上がっていくばかりの聞くに耐えない曲を大音量で流し、そしてウォッカを二杯注いだ。本棚の上には銀の額に入った女の写真が飾ってあって、居間を見下ろしていた。それ以外の飾り物はつまらないものばかりだった。ヨーロッパのいろんな国の絵葉書、チリのサッカーチーム、〈コロコロ〉のとても古いペナント、同じくチリ大学のペナント、同じく〈サンティアゴ・モーニング〉のペナント、どれも古びて手垢に塗れていた。きれいだろう、とロヘリオが銀の額の中の女を指差して言った。ああ、すごくきれいだ、と僕は答えた。そのあとまた腰かけると、僕たちはしばらく無言で酒を飲んだ。ロヘリオがようやく口を開いたとき、ボトルは空になりかけていた。まずボトルを空けよう、それから心のうちを空けよう、とロヘリオが言った。僕は肩をすくめた。もちろん俺は心なんて信じちゃいないが、とロヘリオは付け加えた。でも肝心なのは時間だろ?俺の話を聞く時間はあるか?話によるが時間はあると思う、と僕は言った。そんなに長くはならないさ、とロヘリオ。そして立ち上がり、銀の額に入った写真を取って左脇に挟み、ウォッカのグラスを右手に僕の向かいに座ると、次のような話を始めた。
(……続く)
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通話 [シリーズ:エクス・リブリス] ロベルト・ボラーニョ 著/松本健二 訳 スペインに亡命中のアルゼンチン人作家と〈僕〉との奇妙な友情を描く「センシニ」をはじめ、心を揺さぶる14の人生の物語。ラテンアメリカの新たな巨匠による、初期の傑作短編集。 |



