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読書会ノススメ
読書会ノススメ
アメリカ読書会事情
  矢倉尚子

 アメリカで十数年前から流行し始めた読書会は近年ますます隆盛をきわめ、一説にはいまやミドルクラスの女性の少なくとも3人に1人が何かのかたちで読書会に参加しているという。
 かく言う私も、以前アメリカに住んでいたころ読書会に入っていた。毎月1冊ずつ本を読んでメンバーの家に集まり、ディスカッションをするのだが、準備不足であまり発言しなかったりすると、最後にその日のリーダーから「今日あなたはほとんど貢献しなかった」などと名指しでお叱りを受ける、なかなか厳しいものであった。日本に住む欧米人女性の間でも読書会は盛んに行われていて、私も参加していたことがある。

 『ジェイン・オースティンの読書会』を訳したあと興味が湧いて、「あなたの読書会のことを教えて」というメールをかつての仲間に出してみた。すると驚いたことに、十数時間の間に、もう何年も音信不通だった人を含め、ほぼ全員から熱い返信が返ってきたのである。中には小学生時代の図書館主催の読書クラブに始まって現在に至るまでの「読書会歴」を長々と書き綴ってくれた人もいた。弁護士で多忙を極めるのに、3つの読書会に入っていて4つめを検討中だといい、それぞれの会について克明な解説をしてくれた人もいた。さらには友人の友人だという見知らぬ人からまで情報が寄せられた。(ちなみにその全員が『ジェイン・オースティンの読書会』を読んでいた!)読書会から生まれた人間関係には、何か形容しがたい独特なものがある、と痛感させられる体験だった。

 読書会の何がこれほどアメリカ人女性の心を捉えるのだろう。(男性も同じかもしれないが、読書会をするのは圧倒的に女性なので、ここは女性に限らせていただく。)

 その前にまず、アメリカ流読書会のやり方を説明しておこう。メンバーは10人前後で毎月1回、時間は夜というのが一般的だ。読む本は話し合って決めるが、迷うようならインターネットで検索すれば、ReadingGroupGuides.comをはじめ各種のサイトが読書会向きお勧め本を紹介してくれている。それぞれの本について、読書会で討論すべきトピックまで載っている。ミステリーばかり読む会、歴史小説の会など、特化したものもいろいろあり、インターネットで近隣の読書会を探して入れてもらうこともできる。
 読書会はメンバーの自宅で行われ、おいしい食べ物と白ワインまたは上質のコーヒーが欠かせない。上記のウェブサイトにもちゃんと「レシピ」というコーナーがあるし、『ブッククラブのためのレシピ集』といった本もたくさん出ている。要は、本を話題に定めたホームパーティーなのだ。
 ただし食べ物とワインに重点を置きすぎると、本の話題もそっちのけの、ただのパーティーになってしまう。せっかくの読書会がマンネリに陥ったときは、プロの読書会リーダー(ブッククラブ・ファシリテーターという)を頼むとよい。謝礼は一回300ドルから500ドルぐらいで、本選びから解説と司会まで引き受けてくれる。プロに頼む読書会というのは、日本でいえばカルチャーセンターの文学講座のようなものになるらしい。

 読書会には作家が参加することもある。アメリカの出版社は本のプロモーションとして作家の読書会への参加を斡旋していて、遠方で出向けない場合は当日作家が主宰者に電話をかけるというシステムまである。これについては作家のカーティス・シテンフェルドが2月12日のニューヨークタイムズに傑作な体験談を書いていた。現代版『キャッチャー・イン・ザ・ライ』と言われて話題をまいた『プレップ』の著者である。読書会に呼ばれて行ってみたら、それはただのディナーパーティーで、彼女の本については2人がちらっと話題にしただけだったとか。逆に主人公に共鳴するあまり、「あれは私だ」と言い張ったり、書き直しを要求したりする人もいるらしい。こうなると作家もなかなか大変だ。

 アメリカの読書会を語るときに避けて通れないのは、カリスマ・テレビ司会者オプラ・ウィンフリーの存在である。オプラは1996年以来毎月1回ずつ、自分の番組で読書会をやっていて、そこで取り上げられる本はすべてベストセラーになる。そのほかにも「オプラズ・チョイス」というお勧め本を選んでいて、大型書店には必ずそのコーナーがあるし、アマゾンにもある。オプラのホームページにはオンライン・ブッククラブがあるから、登録すれば日本から参加することもできる。貧しい黒人家庭に育って満足な教育が受けられなかった彼女は、読書が自分を高めてくれたと信じていて、全米に読書の習慣を広めようという使命感に燃えているのだ。
 オプラの読書会では、あらかじめ選ばれた視聴者がスタジオに集まり、まさにワイドショーのノリで小説の筋書きについて議論している。これが低俗で我慢ならないと感じる人もいるのだろう。2002年には作家のジョナサン・フランゼンが自作の『コレクションズ』をオプラが取り上げるのを拒否して話題になった。フランゼンはその後謝罪したのだが、オプラはこの事件のせいか、しばらくして読書会をやめてしまい、出版業界を落胆させた。だが2003年には再開して現在に至っている。好き嫌いはともかく、オプラが読書会の流行に果たした功績は計り知れない。

 さて初めに戻って、アメリカ人女性はなぜこれほど読書会に熱中するのか。
 アメリカの社会学者エリザベス・ロングは『読書会──女性と日常生活における読書の効用』という著書で、この問題を克明に分析している。といっても、私たちが思いつきそうなことを実証して論じているだけではあるのだが。つまり、20世紀後半から、女性の生活は男性よりもはるかに大きな変貌を遂げた。現代のアメリカでは、女性の大半が職業を持っている。それでいて育児や家事はどうしても女性の負担が大きいから、女性は男性に比べても自由時間が少ない。もちろん昔のようにブリッジやキルト作りや教会の慈善活動でのんびりおしゃべりに興じている暇はない。何か月も前から予定を立てておき、夜集まることで、子どものいる女性も夫に預けて出かけることができる。これが女性どうしの友情を培うほとんど唯一の方法になっているのだ。

 読みたい本は無限にあるから、気の合う仲間が集まった読書会は何年でも続けることができる。十年以上同じメンバーで本を読んでいれば、人生の喜びや悲しみのかなりの部分を共有することになる。その点読書会はセラピーや自己啓発グループに似ている。ただ、個人の問題を話し合うわけではなく、小説という緩衝材が入っているために、かえって好ましい距離を保つことができ、長続きするのである。

 こう考えてみると、日本でもそろそろアメリカ型読書会が流行してもよさそうな気がするのだが…。 みなさん、読書会を始めてみませんか?

ジェイン・オースティンの読書会
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ジェイン・オースティンの読書会

カレン・ジョイ・ファウラー 著/
税込価格2520円 (本体価格2400円)


 カリフォルニアに住む6人の男女が、半年に亘りジェイン・オースティンの6つの小説を読む会を開く。その間に6人それぞれに起こる様々な事件を通して鮮やかに描きだされる人間模様。

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