
*ページ末には社員3名が選んだ「2008年の3冊」のおまけ付き!
──それではこれより、2008年度「このハクスイシャがすごい!」選考会を始めます。選考委員は営業部のTさん(元・月刊T)、宣伝部のNさん(現・月刊白水社N)です。よろしくお願いいたします。
T:お願いします。今年もなかなか揉めますね。
N:(一瞬の間)あ、そうですね(笑)。
──「今年も」ってなんですか?(今回がはじめてなのに……)
T:毎年毎年揉めますね。
N:後で聞き返すと恥ずかしいかも……。
T:どのように進めましょう?
N:一応、気になった本をピックアップしてきました。
T:じゃあまず一手お願いします。
──先手、Nさん。
N:では1番目、最近のですけど、『気まぐれ少女と家出イヌ』ですね。この本自体も気になるんですけど、この宣伝コピーがすごい。
T:元のタイトルは『カボカボッシュ』でしたね。
N:なかなか長いので全部呼んでもらえないんですが。
──でも『きまぐれ』で略すとすぐ……
T:『オレンジ☆ロード』!
──という世代の人がいますしね。宣伝コピーのどのへんがよかったですか?
N:「あきたのだ!」というところ。これ、気になりませんでした? すごくかわいくて、惹かれて。途中まで説明口調なのに、ここで感情がこもるんですよ。
──あきられた方の気持ちになってるんですかね(笑)。そのせつなさが伝わってくるというか。すごいですねこれ、編集者の人。犬の気持ちになって。
N:まだちゃんとは読んでないんですけど、絵もかわいいです。
T:目の付け所が違いますねえ。僕は重量勝負で選んだので、まず今年の新刊の最重量作品を……。
N:これが最重量ですか。
T:ええ、『シェイクスピア伝』。これ、1027グラムあります。その次に重いのが『ポル・ポト』で950グラム。
N:でも厚さでいくと『ポル・ポト』のが……
T:こっちA5判なんで、それでページ数はというと、注が……ギリシア数字だからわかんない。
──しっかりしてください。
T:というね、これを選んだんですね。僕も『ポル・ポト』を読んだんですよ。カバン重いし、家で寝ころびながら読むんだけど、腕痛くて。鉄アレイのように、読みながらステキな体を作り上げることができるという、二重の効果を生み出す本なんですよ。
N:持続させるのが筋肉に効くっていいますよね。
T:すごくツライの。その耐える感じが、今読んでるという実感につながる。寝る前に読んでたんですけど、終わるまでに1か月かかりましたね。1か月間体を鍛え続けたというのが、選出理由で……でも持ってくるの忘れちゃった(笑)。
──だめじゃん(笑)。
T:で、それを超えた『シェイクスピア伝』というわけなんです。
──では次、Nさんの方からどうぞ……『ペレ自伝』、行っちゃいますか?
N:これは「出版ダイジェスト」に編集者が書いた「パイプカットの真実」というのが……。
T:(爆)
──そういうこと書くの好きだよね、この編集の人。
T:宣伝部的な選び方ですね。
N:私サッカーに全然興味ないんですけど、読んでみようかなと思わせますよ。
T:あと僕……何選べばいいだろう?
──もしや、重量のあるのしか考えてこなかったの?
T:いや、一応営業部員ですから、今年の売上ベスト3というのを。と言っても上位2つは毎年『キャッチャー・イン・ザ・ライ』と『ライ麦畑でつかまえて』なんですけどね。それで、その次、小説が当たってるんですかね。『ナイフ投げ師』が食い込んでまいりました。今年1月に出て、結構重版して……あれ、これ初版だ……。
──結構刷ってるよね。(実際は5刷)
T:外文では久々のヒットでした。という真面目なベスト3なんですが、この『ナイフ投げ師』は押したいなと思って。というのは、1月刊なんですけど、つい先日やっと読み終わりまして。
全員:(爆)
T:ひと月に一話ずつ。
──そんな楽しみ方があるんですね(笑)。
T:読みたてほやほやみたいな。12編だから1年で丁度です。
──内容についても少しは触れてください。
T:いつも通りのミルハウザーで、変わってなくて安心しました。「ナイフ投げ師」とか「新自動人形劇場」とか「パラダイス・パーク」「協会の夢」……このあたりかな。だいたい似たタイプが好きですね。今までの短編集で言うと「幻影師アイゼンハイム」とか。幻影師とか遊園地とか。
──そういう舞台設定が好き?
T:そうですね。それでもって、世界の先に先に行ってしまった人が狂気を孕んでいく。周囲は最初は熱狂するんだけど、途中で引いてしまう。「そこまで行っちゃうの? もうついていけないよ」みたいな。最後は歴史家みたいな人が客観的な評価をするわけなんですよ……つい真面目なこと言っちゃった。恥ずかしい。でもやっぱりよかったなあ。
──次は後手、Nさん。
N:『グレン・グールド 神秘の探訪』なんですけど……。
T:それ、重そうだなあ。
──『シェイクスピア伝』より重いんじゃない?
T:量ってこなかった。同じA5判で……あれ、これ軽いね?! 本文用紙が軽いのかな。束は同じくらいなのに。
N:選んだ理由は、グールドの写真がかっこいいな、と。
T:え、かっこいい?
N:かっこいい写真ありますよ。
──Nさんピアノ弾くけど、グールドは好きですか?
N:お恥ずかしいことにそんな詳しくないんですよ。
T:Nさんそういえば、映画もかっこいい俳優で見るもんね。メンクイですもん。
全員:(爆)
──じゃあ、メンクイのNさんも納得のヴィジュアルである、ということで。
N:アーサー・ウェイリーもなかなかかっこよかったような。あ、この辺はカットしてくださいね。
──(しません。)まだ5冊しか出てないんで、先に進めましょう。
T:ネタ尽きちゃった……
N:じゃああとは、『フランス語書き取りトレーニング』は書名がよくできていますよね。「カキトレ」というのとの語呂合わせが。次は……
T:どんどん出るねえ。
N:だって、Tさんが4時までにって言ったから急いで探したんですよ!
T:すみません……怒られちゃった。
N:『フッサール』は、宣伝文のコピーがよくわからなくて。
T:(爆)このシリーズはたいていいつもそうだよね。
──はじけすぎて、2ちゃんねらーには中二病と書かれてしまいましたね。
N:そうだったんですか。
T:注文書見ても内容わからないですから、これで注文くださいというのは無謀ですよ。
──Nさん今のところ、読んで内容がよかった本を挙げてないんですが、なにかありますか?……とりあえずそれ行きますか。
N:『ヨーロッパ人相学』。「人を見た目で判断するために!」これもコピーがよいと思ったんですけれど。面白そうなんですよ。
T:『人は見た目が9割』のパロディですね。
N:内容はトンデモ本じゃなく、専門書的で。鏡リュウジさんが書評に取り上げてくれて。
──Tさんは販促に行って思い出深かった本なんてありますか。
T:ダイベックさんが来日しましたね。イベントやりまして。僕は一言も英語が出来ないもんだから、全て日本語で通しました。あるサイン会でお客さんが、為書きなしでとおっしゃったんですけど、それをどうダイベックさんに伝えてよいかわからなくて、どうしようと思って、ページの上の方を差して「なし! なし!」って言ったらダイベックさんが「No name?」って聞いてくれて(笑)。そんな思いが詰まっている『それ自身のインクで書かれた街』です。
N:すみません、私、変な理由ばかりで。『ムッシュ・マロセーヌ』は表紙の絵がかわいいです。
──はいはい。さらに次は『鉄腕ゲッツ行状記』。
N:これは全体的に勢いが。
T:すごいよね! 編集者が校正やってる時に近づくと、「この義手なんだけどさあ、これが動くんだよ!」とか言って、すごい熱が入ってましたよ。
N:私も広告のこと聞きに行ったら、義手について力説してくれました。編集者の熱が感じられる一冊ですね。
T:コピーも、「鉄製の義手は伊達じゃない!」だった気がする。
N:あとは、『四月馬鹿』はタイトルが強烈でした。これで終わりです。
T:終わっちゃダメだよ!
──いやこれで13冊出ましたから、順位をつけます。
T:僕あと、『四人の兵士』を。マンガレリの中で一番いいと思います。もう少し売れてほしいです。すばらしい小説です。それに少年兵なんで、チビッコ出てくると映画でもなんでもダメなんです。それだけでもう! むにゅむにゅ~と。
N:エンディングも、どうなったんだろうと気になる、余韻を残す終わり方ですよね。
──では14冊挙がりました。「本の雑誌」みたいな感じで行きましょう。二人でバトルを繰り広げてください。
T:1位は、鍛えさせてもらった『ポル・ポト』にしたいです。
N:それいいんじゃないですか。私もこれは印象深いです。
──すんなり決まっちゃいましたね。2位はNさんが選ぶ?
N:うーん……
T:やっぱり腕を鍛えさせてもらった『シェイクスピア伝』……
──ダメだよそれ。
T:(小声で)『グレン・グールド』も重いよ!
N:2位は『気まぐれ少女と家出イヌ』かな。
T:きまぐれえええ?! きまぐれだあああ?!
──無理矢理争ってる。
N:なんたって「あきたのだ!」ですよ。時々家でも思い出しちゃうんですから。
T:(笑)
N:小学生にだって読めますし。
──小学生も、自分もあきちゃって、カブトムシに餌あげてなかったな、とか思うかも。じゃあ2位は『気まぐれ』ということで。
T:ちょっと待ってくださいよ。それではパイプカットを告白したペレの立場が!
N:そっちでもいいです。
──『ペレ』はとりあえず、暫定8位に入れておこう。
T:じゃあ、3位は日本語を理解したダイベックさん。「なし!」って言われてダイベックさんよりもお客さんがビビったと思います。ごめんなさい。4位は『カキトレ』? 語学ってこれしか入ってないし。
N:『ゲッツ』は? 印象がすごく強いので……思わず2冊持ってきてしまいました。勢いに押されてます。
全員:(爆)
──4位でも怒られそうじゃない? 「なんでオレのゲッツが気まぐれより下なんだ」とか言われそうですけど、4位ということで我慢していただきましょう。
T:じゃあ、『カキトレ』却下。
──『カキトレ』は暫定9位ぐらいで。
T:次は……『ヨーロッパ人相学』の表紙、ゆるキャラっぽいんだよね。内容は結構アカデミックなのに。
N:私のような難しいのを読まない人にはいいかなあと。おもしろそうだなあと思って。
──では、見た目と内容のアンバランスさを買って、5位ということで。
T:自社の本を誉めてるんだかなんだかわからないですね。
──相当誉めてるよ。有力なところで『ナイフ投げ師』が残ってますよ。
T:鉄は熱いうちに打て!で入れましょう。
N:正統的ですね。
──今まで正統じゃなかったの?(笑)
T:ミルハウザーは一編一編が重いから、時間をかけて読むといいんですよ。なんてことを言うとモテ度が上がるかな……
──上がってますか?
N:いやあ……
──上がってないみたいです。さっさと7位に……
T:今のお友達に言ってくれると、「その人に会ってみたい!」とか言われるはずなんだよね。
N:……じゃあ触れ回っておきます(渋々)。
──で、7位は?(怒)
T:『マロセーヌ』じゃないですか?
N:『四人の兵士』じゃないんですか?
T:それ、どこがよかったの?
──あんなに力説してたくせに!
T:僕、普段の生活ではチビッコ嫌いなんですよ。いじめられてばっかりなんですよ……こんなところに女の子は胸キュン度アップらしいですよ。
N:はあ。
──全然胸キュン度アップしてません(断)。
T:ということで『四人の兵士』。
──あんまり強い理由がないのであれば、暫定8位の『ペレ』を7位に上げます。
T:この顔と釜本さんの帯には勝てないですよ。
──ガマさんの写真も入っているとよかったのにね。じゃあ7位が『ペレ』で、8位が『四人の兵士』。9位は『カキトレ』が暫定で入っているけど。
T:イケメン・グールドのがいいんじゃない?
N:フッサールもありますし。
T:フッサールはどういう顔してたんだろう。フッサールの写真を見てから決めますか。いつ頃の人だったっけ……あとがきにあるかな。(あとがきを朗読し始める)「おわりに。岩見沢を離れてからかれこれ十二年、フッサールという哲学者とつきあってきた。」
──これはもう、このあとがきに負けたね。9位決定。10位は『カキトレ』でいいですか?
T・N:はい。
その結果出来たのが以下のランキングです。
1位『ポル・ポト ある悪夢の歴史』フィリップ・ショート著/山形浩生訳
2位『気まぐれ少女と家出イヌ』ダニエル・ペナック著/中井珠子訳
3位『それ自身のインクで書かれた街』スチュアート・ダイベック著/柴田元幸訳
4位『鉄腕ゲッツ行状記 ある盗賊騎士の回想録』ゲッツ・フォン・ベルリヒンゲン著/藤川芳朗訳
5位『ヨーロッパ人相学 顔が語る西洋文化史』浜本隆志、柏木治、森貴史、溝井裕一、横道誠編著
6位『ナイフ投げ師』スティーヴン・ミルハウザー著/柴田元幸訳
7位『ペレ自伝』伊達淳訳
8位『四人の兵士』ユベール・マンガレリ著/田久保麻理訳
9位『フッサール 傍観者の十字路』岡山敬二著
10位『フランス語 書き取りトレーニング』明石伸子、ミシェル・サガズ著
T:すばらしい! バラエティに富んでますね!
──『フッサール』と『カキトレ』同じ人がやってるんだからね。
T:でも『ポル・ポト』と『シェイクスピア伝』は違う人なんですよ。
──それ、重いという共通項しかないじゃない(笑)。まあ、無事決まりました。ありがとうございました。
●営業部・I a.k.a. 染井吉野ナンシー 選
1.『ブックストア・ウォーズ』碧野圭(新潮社)
2.『おばさん未満』酒井順子(集英社)
3.『愚か者、中国を行く』星野博美(光文社新書)
1.現実はこんなハッピーエンドには運ばないですが、日々接している書店員さんへの敬意をこめて、多くの人にその苦労と努力を知ってもらいたいと思います。
2.今年の流行語にもなった「アラフォー」。気づけば自分もその一員。このシュールな同世代観察には、自分のことを書かれているかのごとき錯覚を覚えます。
3.北京五輪の今年、さまざまな中国モノが出版されましたが、中国とそこに暮らす人々との距離感、彼らに注ぐ眼差しの暖かさ。この本が一番だと思います。
●総務部・A 選
1.『ベルグソン全集(3) 笑い/持続と同時性』 アンリ・ベルクソン/花田圭介、仲沢紀雄、加藤精司、鈴木力衛訳(白水社)
2.『日本語オノマトペ辞典』 小野正弘編(小学館)
3.『理性の限界』 高橋昌一郎(講談社現代新書)
1.「持続と同時性」の邦訳は永らく単行本では読むことができなかったので嬉しい復刊。ただし、「笑い」は余計だ。重量級対決ベルクソンvsアインシュタイン。というより、ベルクソンが食ってかかっているだけだけど。手に入れたことに満足して積ん読状態。来年読もう。(ちゃんと読めよ。)
2.オノマトペって聞くと、何だかぽっと顔を赤らめてしまうのは私だけだろうか。それはともかく、擬態語や擬音語で多くを通じ合っちゃう日本語(日本人)は、考えてみれば不思議ですよね。そんな言葉たちを眺めているだけでウッキッキ。えっ、意味分かんない? まっ、一家に一冊は欲しい。来年買おう。(持ってねぇのかよ!)
3.これはちゃんと買って読みました。難しそうなテーマとは裏腹に、シンポジウムの実録という設定が読みやすい。知的思考が自らの矛盾にもがいている姿を垣間見ることができ、論理的になれない身にはカタルシス的に痛快。例えば、ん~、えーっと...忘れた。来年読み返そう。(もういいって。)
●製作部・S 選
1.『ゴールデン・スランバー』伊坂幸太郎(新潮社)
2.『ゴッホは殺されたのか』小林利延(朝日新書)
3.『父 ボース』樋口哲子(白水社)
1.言わずもがな本屋大賞作品。スピード感と数々の伏線がたまらなく、とにかく面白いと周囲に勧めまくった。今年はひとり伊坂さんフェアを開催。
2.弟テオとヴィンセントとの幾通もの手紙のやり取りからヴィンセントの性格や人柄がみえる。あまり友達にはなりたくないタイプ。
3.実娘の目を通して、独立運動に奮闘しつつも礼儀正しく優しい父親の顔がみえジワッとくるものがあった。


