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ちょっと立ち読み
世界で一番いのちの短い国 シエラレオネの国境なき医師団

 みなさんは、西アフリカにあるシエラレオネ共和国をご存じだろうか?
 この国には、世界一悪い医療統計記録がいっぱいある。
 たとえば平均寿命は25~35歳と世界最短であり、日本人の平均が75~85歳であることと比較すると、わずか3分の1程度である。
 今回私は、国境なき医師団(MSF)からこの国に半年間派遣されたのだが、本書はその奮闘と涙と笑い(?)の記録である。
(「はじめに」より)

*     *     *

「トシ、早くこっちに来てくれ! 子どもが産まれない!」
 朝6時半。病院に着くと、いきなり夜勤のナースエイドにつかまった。朝の挨拶もそこそこにコンクリートむき出しの分娩室に入っていくと、母親の絶叫が部屋中に響きわたる。
 母親のおなかに胎児の心臓の音を聞くための聴診器を当てて、聞こうとするが、……聞こえない。この場合、胎児がもう死亡しているか、あるいは胎児仮死といって、急いで外に出さないと胎児が死んでしまう危険性があるかのどちらかだ。
「トシ、新しい子どもの患者もいるんだけど……」
 手足が骨と皮だけのように細く、おなかだけはパンパンに大きく張っている。これはタンパク質が足りないタイプの栄養失調の子どもの典型的所見であり、この子が重度の低栄養状態であることがわかる。まぶたの内側は真っ白だった。これは、重症の貧血の所見である。胸の音を聞いてみると、
「ずざざざー、ずざざざー」
 と音がする。肺炎(もしくは気管支炎)の所見だ。
 現在午前7時。今日はこれから妊婦を連れてボーへ行き、その後子どもを連れてモヤンバに行かねばならない。ボーへは往復で6時間。モヤンバへも往復6時間かかる。今出発しても戻ってこられるのは午後7時という計算になる。
 ところがMSFのルールで、安全のため夕方6時までには自分の派遣された町の中へ戻ってこなければならないことになっている。夜、暗い中を移動していると、反乱軍に襲われやすいからだ。しかしながら日ごろのMSFの安全管理基準を見ていると、1時間程度の遅刻はOKのようだ。
 となれば、やるしかない。私はチームメンバーへの連絡を開始した。なにをするにも、まず自分たちの安全の確保が優先される。
「トシからジョセフへ。緊急性のある患者がいる。今からマイル91を離れ、ボーへ行ってもいいか?」

*     *     *

 マイル91にいた当時、ジョセフは青い顔をして私にこう言ったものだ。
「トシ、ぜったいに台所に行ってはいけません。私は見てしまったのです!」
 聞けば、台所の天井には巨大なネズミの巣窟があり、そこには数十というか、数百というか、とんでもない数のネズミがひしめいているとのこと。
 台所でコックをしていた現地人スタッフのターニャは、そうした状況を知っていながら、気にしていなかった。
 ある日、ジョセフは、彼女に聞いた。
 ジョセフ「どうして、台所の天井を掃除して、ネズミを追い出さないのですか?」
 ターニャ「あら、だってトシにとって貴重なタンパク源ですもの」

 (『世界で一番いのちの短い国』から抜粋)

【山本敏晴ホームページ】
http://www.act-org.jp/

世界で一番いのちの短い国
もっと詳しく
世界で一番いのちの短い国 シエラレオネの国境なき医師団
山本 敏晴 著
税込価格1470円 (本体価格1400円)

 平均寿命が日本人のわずか3分の1。世界でもっとも医療事情の悪いアフリカの知られざる国で、国境なき医師団から派遣された若き情熱的な医師が、本当の国際協力を目指して奮闘する。

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