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「自分の歴史観をしっかり刻みたかった」

中島:あともうひとつこの本に追い風が吹いたというのが、安倍さんが行ってくれたことですね。安倍首相がインドを訪問した時に、パールの遺族に会いに行った。間違いなくこれは靖国の補填です。自分の支持者層から靖国に行かなかったと突き上げがあると。そういうことで参議院選挙より大分前からこの話は部分的に聞いていたんですけれど、それからパールさんのところに打診があって、行った。それがかなり報道されて、その時結構みなさんが読んでくださったのかなというのが、昨今のこの本を巡る状況です。


:一見ラッキーなんでしょうけれど、おそらくそういう巡り合わせなんですよ。ドキュメンタリーを撮っていても、後で考えたら本当になにかに導かれたような感覚を持ってしまうような、そういった瞬間があるんです。そしてそういった偶然に彩られた瞬間が多い作品って、ほぼ例外なく面白いです。いい作品になる。それは論理的に説明できないぐらい感じています。だからこの本は時代に望まれたということじゃないかな。


中島:森さんにとってどういう本がそれにあたりますか。


:僕にとって『クォン・デ』は、格別な思い入れがありますね。テーマだけじゃなく。それまでの僕の本というのは映像のメイキングだったんです。実際の映像を撮りながらこれはこんなことだった、裏ではこんなことがあった式の展開が中心だった。でも『クォン・デ』は、映像なしで初めて書いた本です。

 話はちょっと逸れるのだけど、僕の肩書きは「ドキュメンタリー作家」と今日も紹介されていますね。すごく抵抗があるんです。ドキュメンタリーって普通に解釈すれば記録とか文書、あるいは事実に即した映像とかになります。つまりノンフィクション。でも作家って作る人ですからね。明らかに論理矛盾です。そして同時にドキュメンタリーって客観的でフィクションの要素がないジャンルかというと、全然そうじゃない。実はフィクションです。作ってます。ちゃんとモノ作っているんだよと示したいという衝動がうずうず沸いてきた時にクォン・デを知ったので、クレームをつけたくなる人がいたら大変なことになりますね。まあ幸いにもあまり売れなかったから話題にならなかったけれど。でもとにかく書いていて面白かったし、自分の歴史観をしっかり刻みたかった。僕にとっては思い入れがある本です。でも売れないんですよ(笑)、思い入れがあるとね。

 あともう一冊はやっぱり、『職業欄はエスパー』。書いていて、自分では一番面白い本じゃないかと思うんですけれど、これも売れない。気楽に書いたほうが売れるみたいですね。


中島:僕も自分にとって一番思い入れがあるのは間違いなく『中村屋のボース』という本なんですよね。恐らく人生それで変わらないだろうと。僕の青春とぴったり合ってしまった人なので。これよりも『パール判事』が売れると嫌だなとどこかで思っているんですけれども(笑)。

 『中村屋のボース』という本が売れてくれて、日本の読書界というのも悪くないなと思った部分はありました。初版2千か3千くらいのものすごく少ない部数で出して、売れないってことを前提に、売れないように書いた本ですから。売れない、っていうのは、カレーを売りにしない、ということが僕にとっては重要だったんですよね。中村屋のカレーを売りにしない。編集者の須山さんや装丁の矢萩多聞さんが、それにちゃんと乗ってくれて、まず装丁の中にカレー色すらない。カレーの文字もない。普通の並の装丁家だったら、絶対オレンジっぽいカレー色にしますよね(笑)。帯の後ろの文章にも、カレーは一切出てこないん。僕もほとんどカレーのこと書いてないんですよね。ツカミでちょっと書いただけ。こういう本を「どうだ!」と出して、マーケットに対して刃向かったわけです。それをある程度読んでくださるというのは、しかも右左の論理で絶対に割り切れない話を書いてまあまあ読んでもらえたというのが、非常に僕自身は嬉しかったです。

 今、右の人も左の人も「パールはオレのもの」論争をやっているので僕は非常に居心地が悪いんです。特に左の方々が、パールはどうも絶対平和主義者らしい、よし右翼からパールを奪った、というような議論をされているようなんですけれど、私はものすごく嫌なんです。それは左翼の側の想像力の大きな欠如で、そういうものに抗いたい。


:本当にねえ・・・。

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