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■壊し屋みたいな作家が好き

清岡:岸本さん、今後のお仕事の予定は?


岸本:単行本では、『ほとんど記憶のない女』のリディア・デイヴィスの『サミュエル・ジョンソンが怒っている』という作品を翻訳します。短篇集で、また50篇くらいある。もっとあるかな、60篇くらい。


清岡:長いものも短いものもあるんですか?


岸本:もうどんどん極端になって、1行とか、その1行も行の半分くらいしかなかったりする(笑)。


清岡:ルナールに近づいてきましたね。蛇、長すぎるみたいな。『ほとんど記憶のない女』は読ませていただいたんですけれど、とても面白かったですね。フランスの匂いがしますよね。知的な感じ、というか論理的な感じもあるけれども、表面上の流れ以外に、それと並行するというか、裏側にある、意識の流れ、書く意識といったものが後退するような感じとか。やや高級だとは思うんですけれど、読み応えがあって、引き込まれましたね。


岸本:あれを出した時は、誰が読むんだろうこれ、って心配でした(笑)。あ、そんなこと言ったら白水社の人に怒られますね。


清岡:堀江敏幸さんも、レダの『パリの廃墟』(みすず書房)を出す時、「一体誰が読むんだろう」っておっしゃってました。全然関係ないんですけれど、同じみすず書房から出ているシェルヴィー・ジェルマンというフランス人作家の『マグヌス』という小説も、『ほとんど記憶のない女』と似たような、ある種内省的な意識のようなものが感じられるんですよ。リディア・デイヴィスには、長編もあるようなことを聞きました。


岸本:一つだけあるんです。変な小説なんだけれども、不思議におもしろくてですね。男の人と別れたところから始まって、その別れたことについて書こうとしてなかなか書けない自分について書いてるっていう小説なんです。それだけ聞くとどこがおもしろいんだと言われるかもしれないんですけれど、なぜかこれが読ませる。『The End of the Story』、『話の終わり』というタイトルで、まさに話が終わったところから始まって、本当にまた終わるんです。男の人との恋愛の顛末なんですけれど、もう本当にろくでもない男で(笑)。こんな男と付き合っていたら一生幸せはないなという感じの人をこれだけ引きずれるリディア姐さんもすごいな、と思いましたね(笑)。


清岡:さっきも話したけれど、岸本さんがお訳しになっている作品は、従来の小説の枠から外れていると思うし、外れているはずなんですけれど、あまりその辺りは意識されていないんですか。


岸本:別に前衛的なものが好きということはなくて、なぜ自分がそういうものを選びがちなのかはわからないんですけれど、小学生のころはずっとさっき挙げた3冊を読んできて、中3のときに筒井康隆を知ったんですね。文字でこんなことができるんだ! という驚きで、読む前と後とで人生が変わるくらいの衝撃の読書体験というのは筒井康隆が初めてで、それをいまだに引きずっているところはあります。そうすると、やっぱりそれぐらいの刺激でないと満足できない、まあある意味変態になってしまったというか(笑)。壊し屋みたいな作家が好きというのは確かにあるかもしれないですね。


清岡:私も学生の仏文科のときに、シュルレアリスムというのをちょっと勉強したんですよ。いわゆるある種のぶっ壊しであるわけで、そういう詩になれているつもりなんだけれど……そうそう、今思い出しましたけれど、たいしてまだフランス語できないのに粋がってシュールの詩なんか読んでるわけですね。そうすると神父のフランス人教師が通りがかって覗いて、「それで勉強しても、フランス語の勉強にならないですよ」(笑)。


岸本:(爆笑)


清岡:なるほど!と思って。シュールの詩はいくらやっても、勉強にならない。「アナトール・フランスやりなさい」と言われてね(笑)。


岸本:恩人ですね。


清岡:恩人です。だから、そういうのに慣れているつもりだったんですけれど、それでもリディア・デイヴィスを読むと、言葉が端正でしっかりしているから一見そうは思わないんだけれども、ある種の壊れ方をしているなあと強く思うんですよ。だから、シュールの時代から80年ぐらい経って、ああいうものがもう普通になったのかなあという変な感慨を持ちました。


岸本:ごくオーソドックスな小説も書いていて、それが並存しているところがまたおもしろいですけどね。

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プロフィール: 岸本佐知子(きしもと・さちこ) エッセイへ
1960年生
上智大学文学部英文学科卒
アメリカ文学専攻
主要著書
『気になる部分』(白水社)
『ねにもつタイプ』(筑摩書房)
主要訳書
J・ウィンターソン『さくらんぼの性は』(白水社)『オレンジだけが果物じゃない』(国書刊行会)
N・ベイカー『もしもし』『中二階』『フェルマータ』『室温』『ノリーのおわらない物語』(白水社)
J・アーヴィング『サーカスの息子』(新潮社)
E・エンスラー『ヴァギナ・モノローグ』(白水社)
S・ミルハウザー『エドウィン・マルハウス』(白水社)
L・デイヴィス『ほとんど記憶のない女』(白水社)
J・バドニッツ『空中スキップ』(マガジンハウス)
灯台守の話
もっと詳しく
灯台守の話

ジャネット・ウィンターソン著/
岸本佐知子訳


「お話して、ピュー」。みなし児の少女シルバーは、盲目の灯台守ピューに引きとられ、百年前のある牧師の「愛の物語」に耳を傾ける……。大海の波のごとく、魂を震わす傑作長編!

プロフィール: 清岡智比古(きよおか・ともひこ) エッセイへ
上智大学大学院博士課程修了
明治大学理工学部准教授
主要著書:
『フラ語入門、わかりやすいにもホドがある!』
『フラ語動詞、こんなにわかっていいかしら?』
『フラ語練習、楽しいだけじゃだめかしら?』
『フラ語ボキャブラ、単語王とはおこがましい!』
『ボンボン・ショコラ』
『おいしいフランス語』
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清岡智比古

ラヴの始まりからデートの細かなテンマツまで、ふたりがフラ語でつきあったらどうなるか? シミュレートしてみました! やっぱり会話は〈恋愛〉が、本領発揮のステージだもんね♥

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