祈りなさい。ハルモニはいう。神さまにお祈りすれば、なにもかもよくなるから。閉じてある本みたいに、両手をぴったり合わせてごらん。そう。そうしたら、前に教えたとおりにいうんだよ。ヨンジュ、おぼえてる? 天にましますわれらが父よ。
ハルモニ、天ってどこ?
天国っていうのは、ハラボジがいるところ。ハラボジは、いい人しかいない愛にあふれた場所で、神さまのそばにいるんだよ。
そこ、あたしもいける?
いつかね。お祈りして、神さまを愛していれば。ヨンジュ、神さまを愛している?
* * *
ミグク。それは魔法のことば。そのことばをきくと、まるでえらい人にドアをノックされたみたいに、オンマとアパはけんかをやめる。(中略)
オンマは、庭でせんたくものをしぼってた。あたしはオンマの腕を引っぱっていう。オンマ、ジュミが、あたしたちがミグクに引っ越すっていってるの。
おすわりなさい。オンマはいって、しゃがむ。おしりを地面すれすれに落として、ひざを上にむけて。
あたしもオンマのとなりにしゃがむ。
ヨンジュ、わたしたちはもうすぐミグクに引っ越すの。
うそ。引っ越すってどういうこと?
ここ何日か、アパとわたしは夕ごはんのときにミグクの話をしていたでしょう?(中略)引っ越すっていうのは、ずっとミグクでくらすってことなのよ。
ずっと?
そう。
ミグクってどこにあるの? ジュミに会いにもどってこられる?
オンマはあたしの髪をなでる。ううん。ヨンジュ。ミグクは海をこえてずっと遠くにあるの。飛行機にのって空を飛ばないといけないのよ。だからしばらくは、ジュミには会えなくなるでしょうね。オンマはゆっくり立ちあがる。(中略)
そのとき、空が目にはいった。空を飛ぶっていってたな。上へ、上へ、上へ。そうか、どこへいくのかわかった。わーい、ミシみたいにしっぽをふりながら走り回りたい。神さまは空にいる。ミグクって、天国にあるんだ。天国なら、ずっと前からいきたかった。聖書に書いてあったとおりなんだ。神さまを愛している人はみんな、いつか天国にいける。神さま、愛してます……あたしはささやく。(中略)
オンマがぬれた服を干している。カモメの羽みたいな、くすぐったいような声でそっとうたってる。あたしはあんまりびっくりして、目玉が飛びだしちゃうかと思った。オンマが歌をうたってるとこなんか、みたことない。教会でも。歌をうたうといっぱい心を使うから、神さまにささげるよゆうがなくなるっていってる。
オンマ、なんの歌?
ア・メ・リ・カ。
それ、なに?
ミグクのこと。
ミグクは魔法のことば。
(『天国までもう一歩』より)
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天国までもう一歩
アン・ナ著/代田 亜香子 訳 税込価格1575円 (本体価格1500円) いろんな夢がかなう国「ミグク(アメリカ)」で幸せをつかもうとした韓国移民の一家。だがそこには思いがけない苦しみも待っていた。全米図書館協会プリンツ賞受賞の感動的ヤングアダルト小説。 |



