内容説明
幻想絵画の巨匠が描く夢幻郷崩壊の地獄図
大富豪パテラが中央アジアに建設した〈夢の国〉に招かれた画家夫妻は、奇妙な都に住む奇妙な人々と出会う。やがて次々に街を襲う恐るべき災厄とグロテスクな終末の地獄図。挿絵多数。
アルヒーフも、郵便局も、銀行も火事を起こして、街路を昼のように明るく照らしていた。高いところにあるフランス地区からは、汚物、廃物、流血、臓腑、動物や人間の死体、などが一塊になって、ゆっくりと溶岩のようにおしよせて来た。腐敗のあらゆる色彩をはなって玉虫色に光っているこのようなごった返しのなかを、最後の夢の国びとたちが足をふみしめるようにして歩きまわっていた。(本文より)
巨万の富を持つ謎の人物パテラが中央アジア辺境に建設した〈夢の国〉に招かれた画家は、ヨーロッパ中から集められた古い建物から成る奇妙な都に住む奇妙な人々と出会う。画家はこの街の住民となり、数々の奇怪な体験をするが、やがてパテラの支配に挑戦するアメリカ人の登場と時を同じくして、恐るべき災厄と混乱が都市を覆い始める。幻想絵画の巨匠クビーンが描くグロテスクな終末の地獄図。作者自筆の挿絵を収録。
[原題]DIE ANDERE SEITE
[著者]アルフレート・クビーン Alfred Kubin(1877-1959)
ボヘミア(現チェコ)のライトメリッツで生まれる。ミュンヘン美術学校で学び、1902年、ベルリンで初の個展を開催、ブリューゲル、ゴヤ、ムンクらの系譜を次ぐグロテスクな怪奇幻想の画家として注目される。1906年、オーストリアの小村ツヴィックレットに移住。同地を拠点にミュンヘンの〈青騎士〉にも参加、カンディンスキー、クレーらと交わった。1909年、唯一の長篇小説『裏面』を自作の挿絵を付して発表。その悪夢的な幻想と不条理に満ちた世界は、カフカを先取りするものと評されている。ホフマン、ポー、ドストエフスキーなど数多くの挿絵本を手掛けた。
[訳者]吉村 博次(よしむら ひろつぐ)
1919年山梨県生まれ。東京帝国大学文学部卒業。同志社大学名誉教授。ドイツ文学者。1999年没。主な著書に『キエルケゴール絶望の概念――「死にいたる病」とその周辺』(夏目書房)、『世界の哲学思想』(共著、実業之日本社)、訳書に、ジンメル『ショーペンハウアーとニーチェ』(白水社)、ニーチェ全集『善悪の彼岸』、ユング『心理学的類型』(中央公論新社)、リルケ全集『日記 1899-1900』(彌生書房)他。
[訳者]土肥 美夫(どひ よしお)
1924年京都府生まれ。京都大学文学部哲学科卒業。京都大学名誉教授。美術史学者。1989年没。主な著書に『抽象絵画の誕生』(白水社)、『ドイツ表現主義の芸術』(岩波書店)、編著に『ドイツの世紀末 チューリヒ』(国書刊行会)、訳書にフッグラー『クレーの絵画』(紀伊國屋書店)、ヴォリンガー『問いと反問』(法政大学出版局)、ニーナ・カンディンスキー『カンディンスキーとわたし』(みすず書房、共訳)他。
*データは刊行時のものです