内容説明
多くの文学者の記憶を秘めた町、トリエステ。この地への旅立ちにはじまるエッセイは、著者の亡夫をはじめとする、なつかしき人々との思い出を綴った、ある家族の肖像となっている。 【本文より】 俺の一生はいったいなんだったのだろう。淋しいルイージ氏は歩きながら考える。…空地を通りぬけ、製菓工場のすこし先の大通りまで足をのばせば、市電の停留所のまえにいつも行く飲み屋がある。まずは安い《赤》を一杯。塩づけのカタクチイワシを一匹とれば、それを肴に、夜の時間はゆっくり流れるはずだ。
多くの文学者の記憶を秘めた町、トリエステ。この地への旅立ちにはじまるエッセイは、著者の亡夫をはじめとする、なつかしき人々との思い出を綴った、ある家族の肖像となっている。 【本文より】 俺の一生はいったいなんだったのだろう。淋しいルイージ氏は歩きながら考える。…空地を通りぬけ、製菓工場のすこし先の大通りまで足をのばせば、市電の停留所のまえにいつも行く飲み屋がある。まずは安い《赤》を一杯。塩づけのカタクチイワシを一匹とれば、それを肴に、夜の時間はゆっくり流れるはずだ。