内容説明
生と死の深淵に挑む現代の叙事詩
現代神話文学の最高傑作。古川日出男氏推薦
『マハーバーラタ』をはじめインドの神話・哲学に素材を得て、絶望と死の淵から新生の自己へと至る道を圧倒的に描く傑作。「叙事詩はギリギリと音を立てる!」(古川日出男)
ウウィイー、ウウィイー
死者たちのところへ行きたい
この世を去って
かれらのところへ行きたい
この身を引き裂かれたい
踏み潰されてしまいたい
わたしは苦痛だ
身の毛もよだつ苦痛だ
人の世に耐えられない
生きることに
耐えられないのだ
『ベルリン・アレクサンダー広場』によって文学界に衝撃を与えたデーブリーンによる壮大な叙事詩。
戦勝の歓声が上がる中、会戦から帰還したウダイプルの王子マナスは戦場での恐るべき死の光景を嘆き、自ら死を求めて「亡者が原」へと赴く。彼がそこで目撃したのは悲惨非道の数々の亡霊たちだった。シヴァ神配下の三悪鬼などとの激烈な闘争の末に斃れたマナスは、愛妻サーヴィトリーによって甦るが、最終的に彼が見出したものとは……。
『マハーバーラタ』を始めとするインドの神話・哲学に素材を得て、デーブリーンは絶望と死の淵から新生の自己へと至る道を圧倒的に描き出す。文体はうねり高まり、神々・亡霊は躍動する。「『ベルリン・アレクサンダー広場』はベルリン方言で書かれた『マナス』なのです」と作者自身が両者の類縁性を指摘し、ムージルは本作を「異常なまでの解放感とわれらが根本感情の大波を捉えている」と激賞する。危機的人間の実相を抉る現代神話文学の最高傑作がここにある。「〈生〉の辺境としての死、〈人間〉の辺境としての神々――それを掘り起こす言葉の膂力。叙事詩はギリギリと音を立てる!」(古川日出男)
[目次]
訳者まえがき
『マナス』関連地図
第一部 亡者が原
第二部 サーヴィトリー
第三部 マナスの帰還
訳注
訳者あとがき
[原題]Manas. Epische Dichtung
[著者略歴]
アルフレート・デーブリーン(1878-1957)
現ポーランド領シュテッティンでユダヤ人の両親のもとに生まれる。10歳のときベルリンに移住。ベルリン大学他で医学を学び、11年から33年の亡命までベルリンの貧民街で内科精神科医院を営んだ。10年には前衛文芸誌『嵐』の創刊に参加、『王倫の三跳躍』(15、フォンターネ賞)、『ヴァレンシュタイン』(20)などを発表。29年の『ベルリン・アレクサンダー広場』は大都会の様相を斬新な技法により描き出しベストセラーとなった。一作ごとに作風は異なりつつも、いずれにも虐げられた者や弱者への連帯感が認められる。41年カトリックに改宗、戦後はフランス軍政部文化部長として帰国し四部作『1918年11月』(39-50)などを発表したが、不遇のうちに終わった。
[訳者略歴]
岸本雅之(きしもと・まさゆき)
1952年生まれ。1978年岡山大学大学院修士課程修了。ドイツ近現代文学専攻。岡山商科大学経営学部教授。
主な論文に「仏陀の自由――アルフレート・デーブリーンの仏陀像と自然について」(日本独文学会編『ドイツ文学』第93号)、「アルフレート・デーブリーンの苦悩の閲歴――遥かポーランドを望んで」(日本独文学会・中国四国支部学会編『ドイツ文学論集』第30号)など。訳書にアルフレート・デーブリーン『ポーランド旅行』(鳥影社、2007年)がある。
*略歴は刊行時のものです