内容説明
戦後を代表する写真家、初のエッセイ集。代表写真45点を収録した決定版!
「心の中にある太陽を信じている」(本文より)
13歳で敗戦を迎え、〈人間の土地〉でデビューするまでの自叙伝をはじめ、巨視的な視点で人間存在を見つめた半世紀に及ぶ思考の軌跡。
「写真は未来から突然にやって来る。僕の場合は、いつもそうだった。僕は空中にひょいと手を伸ばしてつかみとる……すると写真がひとりでに僕の手の中で姿を現わす」(本文より)
長崎県沖の軍艦島と熔岩に埋もれた桜島でたくましく生きる人々を捉えた〈人間の土地〉、北海道の修道院と和歌山の婦人刑務所の孤独な空間で人間の存在を見つめた〈王国〉などで知られる、日本写真界の巨匠・奈良原一高。本書は文筆にも定評のある奈良原の文章を初めて集成し、作家の全貌を伝える待望の一冊。
満洲事変の年に生まれた奈良原は、中学一年で学徒動員され、死と隣合せの日常を過ごす中で敗戦を迎えた。「不毛それ自体が生きていく手がかりとなりはじめた」――無力感にとらわれながらも、自らの心情を重ね合わせるようにカメラのファインダーを覗き、生を模索していったのだ。そのありのままの思いが奈良原の文章からまっすぐに伝わってくる。
デビューまでの自叙伝をはじめ、欧州を駆け巡り改めて日本文化を見つめ直した60〜70年代、そして自身の入院経験をもとにX線写真やCGを生かした近作までの思索の軌跡を辿る。ダイアン・アーバスが自殺する直前にNYで行なわれたワークショップの記録には息をのむ。
巨視的な視点で生と死を見つめ、写真表現の最前線を切り拓いてきた奈良原の歩みは、日本の戦後写真史、ひいては戦後史そのものだといえる。そこには、瑞々しい感性でとらえた生きる歓びと静かな情熱が溢れている。代表写真45点収録の決定版!
[目次]
序にかえて 青白い火花 奈良原一高 福島辰夫
第一章 廃墟からの旅立ち
Ⅰ 無国籍地
ある未知への発端
無国籍地・ルネッサンス
Ⅱ 人間の土地
私の方法について
緑なき島――軍艦島
火の山の麓――黒神村
Ⅲ 王国
二十年目のあとがき
沈黙の園
壁の中
第二章 もうひとつの僕にいたるまで
自叙伝――もうひとつの僕にいたるまで
写真に触れた頃
東松照明の「ヨネ的感覚」
第三章 ヨーロッパの詩(うた)
Ⅰ ヨーロッパ・静止した時間
手のなかの空
ヨーロッパ便り
ヨーロッパ四万七千キロ
Ⅱ スペイン・偉大なる午後
約束の旅
偉大なる午後
フィエスタ
バヤ コン ディオス VAYA CON DIOS
第四章 ジャパネスク
Ⅰ 今様日本語り
「近くて遙かな国」への旅
Ⅱ 日本圖譜
城下町/能/色/刀/角力/富士/禪/句景
第五章 Ikko's AMERICA
ダイアン・アーバスと僕(イッコー)――一九七一年のノート
ロック・フェスティバル――生きる歓び Celebration of Life
第六章 時空の翼
Ⅰ 消滅した時間
水のない海
コロンブスへの道
Ⅱ 華麗なる闇
ヴェネツィアの秘密
オリエントへの扉――黄金の薔薇の時間
第七章 身体という宇宙
Ⅰ 空
見えない光線
Ⅱ 円
「眺め」の彼方
Ⅲ 天
Notes
Ⅳ Tokyo,the '50s
はじめて街を歩いた頃
Ⅴ ポケット東京
街が輝くとき
あとがきにかえて ふたすじの蒼い風 勝井三雄
奈良原一高年譜/初出一覧
[著者略歴]
奈良原一高(ならはら・いっこう)
1931年、福岡県生まれ。54年中央大学法学部卒業後、早稲田大学大学院文学研究科芸術学専攻修士課程に入学。55年に池田満寿夫、靉嘔ら新鋭画家のグループ「実在者」に参加。56年個展「人間の土地」を開催、写真家として活動を始める。58年個展「王国」で日本写真批評家協会新人賞受賞。59年早稲田大学大学院修了。同年、東松照明、細江英公、川田喜久治、佐藤明、丹野章らとセルフ・フォトエージェンシー「VIVO」を結成(61年解散)。62年渡欧、パリを拠点に活動。65年帰国。67年写真集『ヨーロッパ・静止した時間』(鹿島研究所出版会)で日本写真批評家協会作家賞、68年芸術選奨文部大臣賞、毎日芸術賞受賞。70年渡米、ニューヨークを拠点に活動。74年帰国。86年写真集『ヴェネツィアの夜』(岩波書店)で日本写真家協会賞年度賞受賞。96年紫綬褒章、2006年旭日小綬章受章。世界各地で展覧会を開催し、国内外で高く評価されている。
主な写真集に『人間の土地』(リブロポート)、『王国——沈黙の園・壁の中』(朝日ソノラマ)、『スペイン・偉大なる午後』(求龍堂)、『ジャパネスク』(毎日新聞社)、『消滅した時間』(朝日新聞社)、『空 Ku』(リブロポート)、『天[HEAVEN]』(クレオ)、『無国籍地 Stateless Land—1954』(クレオ)、『奈良原一高——時空の鏡』(新潮社)など。
*略歴は刊行時のものです