内容説明
大彫刻家の真の姿に迫る決定版評伝
彫刻家は孤独だった。そして、苦闘の末におとずれた名声は、彼をいっそう孤独にした。
大彫刻家の真の姿に迫る決定版評伝。
「ムードンの巨匠ロダンを称讃してきた者たちは、本書『ロダン 天才のかたち』の出版を今か今かと待ちこがれてきた。ルース・バトラーは、そうした人々を失望させなかった。彼女が編み出した評伝は、正確で、明快で、これまで公にされてこなかった多くのエピソードを生き生きと散りばめた大作だ。本書は、ロダンの人生について新しい意味を与えてくれた。これまで語られてきたいくつもの神話を、ロダン自身が自らの人生に分け入る道として後世の人々に見てほしいと望んでいた文書記録に基づくドキュメンタリーによって置き換えたのである。」(元ロダン美術館館長 ジャック・ヴィラン)
ロダンはおそらく世界でもっとも著名な彫刻家であろう。だが、その生涯については、ロダンと直接親交のあった人々の言説によって、文学的要素、私的感情に強く色づけされ、実像とはかなり隔たって伝えられてきた。1970年代、それまで閉鎖的だったパリのロダン美術館は、方針を転換して、自館のアーカイヴを研究者に公開した。記録魔だったロダンは、膨大な数の書簡やメモ、新聞雑誌記事など、あらゆる文書を遺していた。著者は何年もかけてそれらの資料に目を通すと同時に、同時代の証言を丁寧に拾い上げ、ロダンの真の姿を鮮やかに浮かび上がらせた。
早世した姉への深い愛情、徒弟時代の苦闘、《地獄の門》の注文を得た経緯、革新的な作風とスキャンダルの数々、カミーユ・クローデルとの愛憎、名声を得てさらに深まる孤独感、複雑な女性関係、国家への全作品の寄贈──本書によって、これまで歪められていた事実が修正され、新たな事実が多数明らかにされた。天才ロダンは、当時の政治や社会背景なくしては生まれなかった。ロダンを軸とする美術史の書であると同時に、フランスの社会史にも光をあてた本書は、広範な読者にとって魅力ある一冊である。
[目次]
刊行に寄せて
はじめに
パリ市街図 ロダンゆかりの地
第1部 一八六〇─一八七九年
第1章 一八六〇年、パリのロダン家
第2章 姉マリアの誓願
第3章 修練士オーギュスト
第4章 自立を目指して
第5章 彫刻工房の助手
第6章 ブリュッセルのヴァン・ラスブール=ロダン社
第7章 ベルギーを去る予兆
第8章 ミケランジェロを師と定めて
第9章 《敗北者》——初めての塑像
第10章 パリのサロン展
第11章 共和国はモニュメントを必要とする
第2部 一八八〇─一八八九年
第12章 ロダンはいかにして〈扉〉の注文を得たのか
第13章 静けさと創造性——〈扉〉のための模索
第14章 男の顔に宿る天才——友人たちと文豪ユゴー
第15章 アトリエの女性たち
第16章 《カレーの市民》
第17章 〈扉〉から《地獄の門》へ
第18章 「天才的な女性」とともに
第3部 一八八九─一八九八年
第19章 天才たちの記念像——《バスティアン゠ルパージュ》《クロード・ロラン》《ヴィクトル・ユゴー》
第20章 天才に捧げるさらなる記念像——《バルザック》《ボードレールの墓碑》
第21章 アトリエの助手たち
第22章 カミーユ・クローデルの情熱
第23章 紛糾する文芸家協会
第24章 「これは完成作なのか?」
第25章 勝利と敗北——ユゴーとバルザックの記念像
第4部 一八九九─一九一七年
第26章 事業家としてのロダン
第27章 異端者の勝利
第28章 彫刻家の家——ムードンのブリヤン荘
第29章 英国社交界の寵愛
第30章 アメリカ人に彫刻を教える
第31章 フランスにおけるロダンの評価
第32章 性的な本能——ロダンをめぐる女性たち
第33章 新しい〈妻〉とパリのビロン館
第34章 人生の総決算へ
第35章 寄贈——ロダン美術館の誕生
終章
訳者あとがき
原註
参考文献
謝辞
図版クレジット
オーギュスト・ロダン略年譜
[原題]RODIN : The Shape of Genius
[著者略歴]
ルース・バトラー(Ruth Butler)
1931年生まれ。マサチューセッツ大学美術史学名誉教授。ロダン美術館学芸顧問。ロダンの初期作品に関する博士論文を執筆以来、ロダンの作品と彼が遺したものについて3冊の書籍、『ロダン展望』(Rodin in Perspective, 1980)、『ロダン 天才のかたち』(Rodin. The Shape of Genius, 1993)、『巨匠の影に隠されて―セザンヌ、モネ、そしてロダンのモデルを務めた妻たち』(Hidden in the Shadow of the Master: the Model Wives of Cézanne, Monet and Rodin, 2008)を発表。現在は、次の書籍となる『ボストンのブロンズ・メン―その公共彫刻と政治』(Boston’s Bronze Men: It’s Public Sculpture and its Politics)を執筆中である(北アメリカでつくられた最初のブロンズ彫刻は、バトラー教授が住むボストンで鋳造されている)。
[監修者略歴]
馬渕 明子(まぶち あきこ)
独立行政法人国立美術館理事長、国立西洋美術館館長。東京大学大学院人文科学研究科修士課程修了。東京大学大学院、パリ第四大学大学院博士課程で美術史を学ぶ。東京大学助手、国立西洋美術館主任研究官、日本女子大学人間社会学部教授等をへて2013年より現職。著書に『美のヤヌス テオフィール・トレと19世紀美術批評』(スカイドア)、『ジャポニスム 幻想の日本』(ブリュッケ)、『美術とジェンダー2 交差する視線』(共著、ブリュッケ)など。
[訳者略歴]
大屋 美那(おおや みな)
国立西洋美術館主任研究員だった2013年6月18日、研究渡航先のパリにて急性骨髄性白血病のため急逝。学習院大学大学院人文科学研究科修士課程修了。1988年から1996年まで静岡県立美術館学芸員として、同美術館のロダン館開館や国際シンポジウム「ロダン芸術におけるモダニティ」に携わる。2001年から国立西洋美術館に勤務し、2006年「ロダンとカリエール」展、2010年「フランク・ブラングィン展」(第6回西洋美術振興財団賞学術賞受賞)、2012年「手の痕跡」展を企画。著訳書にフランス国立ロダン美術館編『ロダン事典』(共訳・共同執筆、淡交社)、『ローマ 外国人芸術家たちの都』(共著、竹林舎)など。
[訳者略歴]
中山 ゆかり(なかやま ゆかり)
翻訳家。慶應義塾大学法学部卒業。英国イースト・アングリア大学にて、美術・建築史学科大学院ディプロマ取得。訳書にフィリップ・フック『印象派はこうして世界を征服した』、フローラ・フレイザー『ナポレオンの妹』、レニー・ソールズベリー/アリー・スジョ『偽りの来歴 20世紀最大の絵画詐欺事件』、サンディ・ネアン『美術品はなぜ盗まれるのか ターナーを取り戻した学芸員の静かな闘い』(以上、白水社)、デヴィッド・ハジュー『有害コミック撲滅!アメリカを変えた50年代「悪書」狩り』(共訳、岩波書店)など。
*略歴は刊行時のものです