内容説明
古代ローマ軍事史の専門家が描く激動の時代
世界史上もっとも有名なカップルの実像
カエサルがアントニウスに期待したのは、軍人としての才能ではなかった。
シェイクスピアの作品で知られる、古代ローマ共和政期の軍人として名高いマルクス・アントニウスと、その恋人でエジプトの女王クレオパトラ。軍事史の専門家による、通説をくつがえす新しい評伝。
[口絵・地図収録]
「重要なのは、アントニウスを単にカエサルを補佐する部下、あるいはクレオパトラの恋人という役割に貶めるのではなく、ローマ元老院議員のひとりとして理解する必要があるということである。より詳しく調べてみると、この人物について言われている事の多くが実は誤りだとわかる。プルタルコスをはじめ多くの作家が彼を何よりも軍事的な人間、ひとりの女によって身を滅ぼした、虚勢を張る粗野な軍人として描いている。……はっきり言えるのは、ローマ人の基準からすると、彼の軍務経歴が非常に少なく、しかもその大部分は内乱時の経験であることだ。」
(本文より)
古代ローマ時代から現代まで、アントニウスの人物像は、野卑で自堕落、騎士道的な人物、優秀な軍人と変化し、エジプトの女王クレオパトラ7世も、ローマ軍人を堕落させた東方の女、野心に満ちたカリスマ的指導者、教養があり自立した強い女性と、さまざまに語られてきた。それらの見方は、アントニウスと戦い勝利した側によるプロパガンダをはじめ、その時々の社会や政治と切り離すことはできない。同時に、当時の東方諸国の君主は、ローマに何を求め、何を求められていたか、ローマの内乱期にどういう状況におかれていたかを抜きには語れないのだ。
混乱した時代と地域で、しかも骨肉相食む伝統のプトレマイオス王家において、クレオパトラが生き残り、女性ながら実質的にひとりで長期間統治したことは、それ自体が偉業だった。だが実のところ、クレオパトラが権力を持ちつづけていられたのは、個人の有能さや魅力だけでなく、ローマにとって政治的に有用で信頼がおけたからだったのである。
アントニウスは名将と言えるのか。クレオパトラはローマに反旗を翻したのか。軍事史の専門家による、通説をくつがえす新しい評伝。
[目次]
序論
1章 二つの国
2章 「雌狼」─ローマの共和政
3章 プトレマイオス朝
4章 弁論家、浪費家、海賊
5章 「笛吹王」
6章 青年期
7章 王の帰還
8章 立候補
9章 「新愛姉弟神」
10章 護民官
11章 女王
12章 内乱
13章 カエサル
14章 騎兵長官
15章 「王ではない、カエサルだ」
16章 執政官
17章 「三頭のひとり」
[原題]Antony and Cleopatra
[著者略歴]
エイドリアン・ゴールズワーシー Adrian Goldsworthy
1969年生まれのイギリスの歴史家。
オクスフォード大学セント・ジョンズ・カレッジ卒。
キングズ・カレッジ・ロンドンなどで教鞭を執ったのち、著作に専念。
本書刊行時はサウスウェールズ在住。
古代ローマとローマ軍事史の専門家として知られ、他に『カエサル』(白水社)、『図説 古代ローマの戦い』『古代ローマ軍団大百科』(東洋書林)などの著書がある。
[訳者略歴]
青山学院大学文学部史学科教授。東北大学大学院文学研究科博士課程退学、専門は古代ローマ史。訳書は他にガーンジィ『古代ギリシア・ローマの飢饉と食糧供給』(共訳、白水社)、ウィルケン『ローマ人が見たキリスト教』(共訳、ヨルダン社)がある。
*略歴は刊行時のものです