内容説明
古代ローマ軍事史の専門家が描く激動の時代
二人の人物像を当時のプロパガンダから解放する
クレオパトラはローマに反旗を翻したのか? アントニウスは「女に堕落させられた軍人」だったのか? 大国エジプトの実像と内乱の続くローマとの関係を、最新の学説によって描く。
[口絵・地図収録]
「物語の前面に置かれるのは政治になる。アントニウスもクレオパトラも、何よりも政治的動物だったからである。女王の最初の恋人で長子の父親であるカエサルもそうだった。この三人が政治的計算抜きで行動したことはなかった。……それでも、彼らがお互いに強く、心から惹かれ合わなかったというわけではない。」
(本文より)
古代ローマ時代から現代まで、アントニウスの人物像は、野卑で自堕落、騎士道的な人物、優秀な軍人と変化し、エジプトの女王クレオパトラ7世も、ローマ軍人を堕落させた東方の女、野心に満ちたカリスマ的指導者、教養があり自立した強い女性と、さまざまに語られてきた。それらの見方は、アントニウスと戦い勝利した側によるプロパガンダをはじめ、その時々の社会や政治と切り離すことはできない。同時に、当時の東方諸国の君主は、ローマに何を求め、何を求められていたか、ローマの内乱期にどういう状況におかれていたかを抜きには語れないのだ。
混乱した時代と地域で、しかも骨肉相食む伝統のプトレマイオス王家において、クレオパトラが生き残り、女性ながら実質的にひとりで長期間統治したことは、それ自体が偉業だった。だが実のところ、クレオパトラが権力を持ちつづけていられたのは、個人の有能さや魅力だけでなく、ローマにとって政治的に有用で信頼がおけたからだったのである。
アントニウスは名将と言えるのか。クレオパトラはローマに反旗を翻したのか。軍事史の専門家による、通説をくつがえす新しい評伝。
[目次]
18章 女神
19章 復讐
20章 ディオニュソスとアフロディテ
21章 危機
22章 侵入
23章 「祖国を愛する者」
24章 「インドとアシアを震駭させ」─大遠征
25章 諸王の女王
26章 「彼女は私の妻か?」
27章 戦争
28章 アクティウム
29章 「立派な最期」
結論――歴史と大ロマンス
謝辞
訳者あとがき
家系図
年表
用語解説
参考文献
原註
索引
[原題]Antony and Cleopatra
[著者略歴]
エイドリアン・ゴールズワーシー Adrian Goldsworthy
1969年生まれのイギリスの歴史家。
オクスフォード大学セント・ジョンズ・カレッジ卒。
キングズ・カレッジ・ロンドンなどで教鞭を執ったのち、著作に専念。
本書刊行時はサウスウェールズ在住。
古代ローマとローマ軍事史の専門家として知られ、他に『カエサル』(白水社)、『図説 古代ローマの戦い』『古代ローマ軍団大百科』(東洋書林)などの著書がある。
[訳者略歴]
青山学院大学文学部史学科教授。東北大学大学院文学研究科博士課程退学、専門は古代ローマ史。訳書は他にガーンジィ『古代ギリシア・ローマの飢饉と食糧供給』(共訳、白水社)、ウィルケン『ローマ人が見たキリスト教』(共訳、ヨルダン社)がある。
*略歴は刊行時のものです