内容説明
緻密な幻視、緊迫の描写、作家が示す到達点
男女関係の綾なす心理を匠の技巧で物語る傑作集。「復讐」「ドン・フアンの冒険」、トリスタンとイゾルデ伝説を踏まえた表題作を収録。
男女の複雑怪奇な心理の綾
ミルハウザーが59歳だった2003年に刊行された本書は、匠の技巧を堪能できる、粒ぞろいの中篇集だ。ミルハウザーは、『三つの小さな王国』『魔法の夜』が証明するように、優れた中篇作家でもあるのだ。
売りに出した自宅を女性が客に案内するなかで、思いがけない関係が浮かび上がる「復讐」、官能の快楽に飽いた放蕩児が、英国の貴婦人に心を乱される「ドン・フアンの冒険」、王妃と騎士の不義を疑う王の煩悩、王の忠臣が悲運を物語る表題作を収録。
「木に登る王」では、騎士トリスタンと王妃イゾルデと王の悲劇を傍観しつつ、重要な節目では当事者ともなる王の忠臣トマスの語りが冴える。三角(もしくは四角)関係の当事者・準当事者たるこの三人の心理のさまざまな層が、ミルハウザーならではの律儀な丁寧さで――意外性を伴って――仔細に述べられてゆく。
本書は、「複雑怪奇化した男女関係」というテーマの一貫性が、書物としての統一感を生み出し、三つの中篇作品の累積的な読みごたえにおいて、ミルハウザーのひとつの到達点と言えるだろう。
男女の複雑怪奇な心理の綾、匠の技巧が光る極上の物語!
[原題]The King in the Tree : Three Novellas
[著者略歴]
スティーヴン・ミルハウザー STEVEN MILLHAUSER
1943年、ニューヨーク生まれ。アメリカの作家。
1972年『エドウィン・マルハウス』でデビュー。『マーティン・ドレスラーの夢』で1996年ピュリツァー賞を受賞。邦訳に『イン・ザ・ペニー・アーケード』『バーナム博物館』『三つの小さな王国』『ナイフ投げ師』(1998年、表題作でO・ヘンリー賞を受賞)、『ある夢想者の肖像』『魔法の夜』がある。(以上、白水社刊)
ほかにFrom the Realm of Morpheus 、、Dangerous Laughter: Thirteen Stories 、We Others: New and Selected Stories (2012年、優れた短篇集に与えられる「ストーリー・プライズ」を受賞)、Voices in the Night がある。