至福の烙印

スイスの片田舎に暮らす一家のささやかな日常を、詩的で圧縮された表現で描く。現代スイスを代表する作家による3篇を集めた初の邦訳

著者 クラウス・メルツ
松下 たえ子
ジャンル 一般書 >  海外文学 >  小説
シリーズ 一般書 > エクス・リブリス
出版年月日 2017/07/25
ISBN 9784560090527
判型・ページ数 4-6・232ページ
定価 2,640円(本体2,400円+税)
在庫 在庫あり

内容説明

現代スイスを代表する作家の3篇、初の邦訳
家族の物語が映し出す生の厳しさと明るさ


スイスの片田舎に暮らす人々のささやかな日常を、詩的かつ圧縮された表現で描き出す。現代スイスを代表する作家による珠玉の三篇、本邦初訳。ヘルマン・ヘッセ賞、スイス・シラー財団賞受賞作を収録。

 「それはぼくたちの腿やくるぶしのあたりを飾った至福の烙印だった。ヴィノンのチーズ工場の裏手の長いカーブでもはや遠心力に抗えなくなったとき、ぼくたちの剥き出しの肉が熱くなった排気管に押しつけられてできたものだ。
 家に帰ると至福は痛みに変わり、傷は焼けつくようだった。バターを塗ってもらうと、そんな荒っぽい乗り物にはもう絶対に乗るなと言われた。」
(「ヤーコプは眠っている」より)

スイスの片田舎に暮らす一家の変わりばえしない日常を描きながら、彫琢を重ねた詩的な言葉、暗示、省略を特徴とする圧縮された表現によって、広大な文学世界へと繋がる作品を書き継いできたクラウス・メルツ。マックス・フリッシュ、フリードリヒ・デュレンマット亡きあとの現代スイス文学を代表する作家による珠玉の3篇。

「ヤーコプは眠っている」:1950年代後半から60年代初頭のスイスのある家族の日々が、現在の「私」と子供の日の「ぼく」の眼差しの往還を通して語られる。
「私」には生後まもなく亡くなった兄ヤーコプがいた。公には名前を与えられなかった子供だが、家族の中では密やかに存在している。パン屋を営む父は癲癇(てんかん)、母は鬱症、水頭症を患う弟は家族に太陽と呼ばれている。「ぼく」は弟を周囲の目から守り、家族を助けつつ成長していく。

「ペーター・ターラーの失踪」:ペーター・ターラーが失踪する。友人や家族が彼を探すが見つからない。語り手がターラーの家出から死までの道のりを、しばしば彼の視点を交えて辿る。子供時代、両親との関係、パリやロンドンへの旅……その道行きの合間に、母の最期に付き添ったターラーの手記が挟まれる。

「アルゼンチン人」:卒業してから倍の年に同窓会に出席した語り手「私」が、かつての同級生レナから、彼女の祖父にまつわる話を聞く。二人が卒業した学校の教員だった祖父は、戦後南米で暮らしていたことがあり、「アルゼンチン人」と呼ばれていた。レナが語り、それを「私」が語り直す「アルゼンチン人」の物語と並行して、レナと「私」の恋が進行する。

[目次]
ヤーコプは眠っている 本来なら長篇小説
ペーター・ターラーの失踪 物語
アルゼンチン人 短編小説

 訳者あとがき

[原題]Brandmale des Glücks

[著者略歴]
クラウス・メルツ Klaus Merz
1945年スイス、アールガウ州アーラウ生まれ。1967年に出版した処女詩集で高い評価を得た後、次々に詩を発表。80年代後半まで教職に就き、小・中学校の教員、高等専門学校の講師などを務めるかたわら創作を続ける。1975年の短篇小説『必修トレーニング』以後、散文にも手を初め、小説のほか、詩、戯曲、児童書、絵画や写真に関するエッセイ等、多岐にわたる執筆活動を展開。1997年、『ヤーコプは眠っている』でヘルマン・ヘッセ賞、2005年には『ペーター・ターラーの失踪』でスイス・シラー財団賞を受賞(いずれも本書所収)。他にもゴットフリート・ケラー賞などスイス国内の数々の文学賞を受賞している。2011年より全7巻の全集が刊行され、2016年に完結。作品は英語、フランス語、イタリア語、ロシア語、中国語などに翻訳されている。

[訳者略歴]
松下たえ子(まつした・たえこ)
長野県生まれ。慶應義塾大学文学部修士課程修了。ベルリン自由大学文学博士号取得。著書に『エルゼ・ラスカー‐シューラー』(慶應義塾大学出版会)、編著書に『言葉と力』(三省堂)、編訳書に『ミレナ 記事と手紙』(みすず書房)等がある。

*略歴は刊行時のものです

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(本体2,400円+税)

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