内容説明
米ソで社会現象となった音楽家、初の評伝
2017年全米批評家協会賞最終候補作
第一回チャイコフスキー国際コンクールで優勝し、彼を記念したコンクールに名を残すピアニストの、数奇な生涯を初めて明らかにする。[口絵16頁]
アメリカのピアニストに、モスクワが、ソ連中が熱狂した
1958年、冷戦の最中に、23歳のヴァン・クライバーンは第1回チャイコフスキー国際コンクールで優勝した。これはソ連側のプロパガンダ計画にとってまったくの予定外であり、アメリカ側にとっては、宇宙開発でおくれをとったことで大きく傷ついた自信を癒す「お守り」となった。だが、そもそもクライバーンの何が、当局が方針を変えざるを得ないほど、ソ連の人々を熱狂させたのだろうか。
フルシチョフに愛され、オバマ大統領まで歴代の大統領から招待を受け演奏したクライバーン。双方の国で社会現象となった彼は、辻井伸行氏の優勝で知られるコンクールに名を残し、東西冷戦と商業主義に翻弄されつつも音楽への愛でたびたび米ソを動かした。そして人気のさなかに公的な演奏から引退を宣言、長い隠退生活をへて、ホワイトハウスで劇的な復活を遂げたのである。 膨大な回数のインタビューと米ロ双方のアーカイブから新たに公開された証拠に基づき、本書は、「忠誠心の鑑のような反逆者」ヴァン・クライバーンという人間と、チャイコスフキー国際コンクールの劇的な全貌を、初めて明らかにする。
[原題]Moscow Nights: The Van Cliburn Story-How One Man and His Piano Transformed the Cold War
著者紹介
歴史家、伝記作家、批評家。1969年、英国マンチェスター生まれ。オクスフォード大学で英文学を学ぶ。その後、『タイムズ』で演劇批評を、『エコノミスト』で時事問題や書評、映画評の執筆を担当。前著『ヴァスコ・ダ・ガマの「聖戦」――宗教対立の潮目を変えた航海』(白水社)が「ニューヨーク・タイムズ」のNotable Books of 2011に選ばれたほか、優れた歴史ノンフィクションに与えられるヘッセル=ティルトマン賞の最終候補となるなど、高く評価された。本書は2017年全米批評家協会賞最終候補となった。
訳者紹介
1955年生まれ。慶應義塾大学経済学部卒。主要訳書:グッドール『音楽史を変えた五つの発明』、ベッカー『オーケストラの音楽史』、ゲインズ『「音楽の捧げもの」が生まれた晩――バッハとフリードリヒ大王』(以上、白水社)、オッテン『ヘルベルト・フォン・カラヤン写真集』(ヤマハミュージックメディア)