内容説明
会社を辞めて「起業」に走る前に……
起業論の記念碑的著作
失業率やGDPはじめ各種統計から浮かび上がる起業大国アメリカの実像。
マイクロソフトのビル・ゲイツ、アップルを立ち上げたスティーブ・ジョブズ、オラクル創業者のラリー・エリソン。こうした人物に象徴されるように、身ひとつでたたき上げた「起業」に成功して巨万の富を築くというアメリカン・ドリームは今なお、〈神話〉として米社会を根本で支えている。
しかし、本書によれば、現実はまったく異なる。連邦準備制度理事会や国勢調査局などの経済統計から浮かび上がる起業のごくありふれた光景はこんな具合だ。
米中西部の都市ララミー。大学中退歴のある40歳代の白人既婚男性が「よそで働きたくない」という動機から職を転々とし、挙句、生活が逼迫して起業に手を染める!
もちろん、そんな彼が手掛けるビジネスはアメリカン・ドリームとは程遠く、建設会社や自動車修理工場のようなローテクに限られる。そして、資金繰りは芳しくなく、5年以内に消える運命にある……。
本書は、経済成長や雇用創出(失業率)、人種や性別まで、統計を駆使して、もうひとつのアメリカを浮き彫りにする試みでもある。職を転々として起業に身をやつす米国人の姿は、産学官が一体になって起業を喧伝する日本社会に一石投じることは間違いない。
[目次]
謝辞
イントロダクション
起業とは何か/起業に関するイメージ/神話を信じ込んでいるとどうなってしまうのか/
本書を読むべきなのは誰か/本書ではどのような問題を取り扱うのか/たとえば
第一章 アメリカ──起業ブームの起業家大陸
起業家の数は増えていない/アメリカでの起業は低調である/
国によってスタートアップの数が多くなるのはなぜか/国内でスタートアップが占める割合の相違/
地域間の起業の違いを説明するのは何か/結論
第二章 今日における起業家的な産業とは何か?
どのような産業分野で起業家はビジネスを始めるのか/なぜ特定の産業が起業家の間で人気なのか/結論
第三章 誰が起業家となるのか?
起業家のマインド/なぜビジネスを始めるのか/起業家は“優れた”人間なのか/
起業家になることは若者の専売特許なのか/実社会で痛い目に遭うことがビジネスを始める導きなのか/
専攻が重要なのか/経験の重要さ/生粋の地元育ちよりも移民のほうが起業家になりやすいのか/
コネより知識/結論
第四章 典型的なスタートアップ企業とは、どのようなものなのか?
新たなビジネスのほとんどはとても平凡である/たいていのスタートアップは革新的ではない/
たいていのスタートアップはごく小規模である/成長を目指すビジネスはわずかである/
新たなビジネスの多くは競争優位を欠いている/半数は在宅ビジネスである/
起業家はどのようにしてビジネスアイデアを思いつくのか/起業家はどのようにビジネス
アイデアを評価しているか/ビジネスを立ち上げる/会社立ち上げは成功例よりも失敗例のほうが多い/
チームで起業?/結論
第五章 新たなビジネスは、どのように資金調達をしているのか?
ビジネスを立ち上げるのにどれくらいのお金が必要なのか/主な資金源は創業者の貯金/
お金持ちのほうが起業しやすいのだろうか/個人的な負債/どんな企業が外部資金を獲得するのか/
負債か株式か/スタートアップは銀行から借り入れできるのか/外部からの株式資本による資金調達/
ベンチャー資本はあなたが考えるほど重要ではない/ビジネスエンジェルの実像/結論
第六章 典型的な起業家は、どのくらいうまくやっているのか?
典型的な新たなビジネスは失敗する/ビジネスから撤退する/起業家はそれほど儲からない/
起業によるリターンは不確実である/起業家は投資資金に対する追加的なリターンを得られない/
起業家はベンチャーの展望について過剰に楽観的か/ごく少数の起業家が大成功を収める/創業者の満足/結論
第七章 成功する起業家とそうでない起業家の違いは何か?
時間とともに容易になる/どの産業で、ということが非常に重要/ほとんどの起業家は愚か者なのか/
ほかにやるべきことは何か/よりよい起業家になるための準備は可能だ/正しい創業の動機を持て/結論
第八章 なぜ、女性は起業しないのか?
女性はあまり起業家にならない/なぜ女性起業家の割合は低いか/女性のスタートアップの業績は/
なぜ女性が創業したビジネスの業績は貧弱なのか/結論
第九章 なぜ、黒人起業家は少ないのか?
なぜ黒人起業家の割合はかくも低いのか/黒人によるスタートアップの業績はどうだろうか/
なぜ黒人が保有するスタートアップの業績はよくないのか/結論
第十章 平均的なスタートアップ企業には、どの程度の価値があるのか?
経済成長/雇用拡大/雇用の質/結論
結論
起業の現実/われわれは何をなすべきか
訳者あとがき
解題(西村創一朗、中野剛志、柴山桂太)
註
神話と現実
[著者紹介]
スコット・A・シェーン
1964年生まれ。ケース・ウェスタン・リザーブ大教授。ペンシルベニア大で博士号を取得後、MITなどを経て現職。ハイテク産業を中心にビジネスチャンスの発見や経営資源の統合について研究している。『“起業”という幻想―アメリカン・ドリームの現実』でBest Business Books of 2008、Toronto Globe and MailとBest Business Books of 2008、Inc Magazineに選ばれたほか、2002年には米経営学会最優秀論文賞を受賞。
[訳者略歴]
谷口功一(たにぐち・こういち)
1973年生まれ。東京大学法学部卒。東京大学大学院法学政治学研究科博士課程単位取得退学。現在、首都大学東京法学系教授。主な著作に『ショッピングモールの法哲学』(白水社)、『日本の夜の公共圏』(編著、白水社)他。
[訳者略歴]
中野剛志(なかの・たけし)
1971年生まれ。東京大学教養学部教養学科(国際関係論)卒。通商産業省(現・経済産業省)を経て、評論家。エディンバラ大学より博士号(社会科学)取得。主な著作に『TPP亡国論』(集英社新書)、『真説・企業論』(講談社現代新書)他。
[訳者略歴]
柴山桂太(しばやま・けいた)
1974年生まれ。京都大学経済学部経済学科卒。京都大学大学院人間・環境学研究科博士課程単位取得退学。現在、同研究科准教授。主な著作に『静かなる大恐慌』(集英社新書)他、主な訳書に『グローバリゼーション・パラドクス』(白水社)他。