内容説明
劇作家の苦闘、甦るブルガーコフ最後の傑作
劇場の不条理な機構に翻弄される男の悲喜劇
独立劇場のために戯曲を執筆したマクスードフだが、様々な障害によって上演は先延ばしに。劇場の複雑な機構に翻弄される作家の悲喜劇。
『船舶通信』のしがない記者兼校正係マクスードフは、昼は新聞の仕事をしながら、夜は小説を書き続けていた。ある夜、突然部屋を訪れた著名な編集者ルドルフィによって文芸誌に掲載が決まり、作家の仲間入りを果たしたマクスードフだったが、それが苦難の始まりだった。ルドルフィは発売前の雑誌と共に姿を消し、〈独立劇場〉の依頼で自作を戯曲化するも、演出家の介入や劇場内の対立など、様々な障害によって上演は先延ばしされる。劇場の複雑な機構に翻弄されながらもその虜となっていく作家の悲喜劇を戯画的に描いたこの作品は、スターリン体制下のロシアで反革命的との批判を浴び、劇作に活路を見出すも上演中止が相次ぎ、困難な状況に陥ったブルガーコフ自身の体験に基づいている。発表の当てもないまま書き続けられ、没後16年に初めて出版されて劇的な復活を果たした未完の傑作。
[原題]Театральный роман
[著者略歴]
ミハイル・ブルガーコフ
1891年、キエフで生まれる。ロシア革命の動乱のなか、モスクワで文学活動を開始。1925年、長篇『白衛軍』を雑誌発表、短篇集『悪魔物語』を刊行するが、反革命的との批判を受け、戯曲も当局による上演中止が相次ぐ。失意の中、発表の当てのないまま 『巨匠とマルガリータ』『劇場』等の作品を書き続け、1940年死去。1966年に遺稿『巨匠とマルガリータ』が初の活字化、各国語に翻訳されて劇的な復活を遂げる。
[訳者略歴]
水野忠夫(みずの ただお)
ロシア文学者。1937年、中国吉林市に生まれる。早稲田大学文学部露文科卒業。早稲田大学文学部名誉教授。2009年死去。著書に『新版マヤコフスキー・ノート』(平凡社ライブラリー)、『ロシア・アヴァンギャルド』(パルコ出版局)、『囚われのロシア文学』(中公新書)、訳書にブルガーコフ『巨匠とマルガリータ』『悪魔物語・運命の卵』(岩波文庫)、『犬の心臓』(河出書房新社)などがある。