内容説明
出会いのアルケミア、人的交流の文化史
ユングに傾倒したアメリカの資産家夫妻が創設したボーリンゲン基金と出版活動。20世紀を変えた〈知〉が生成される現場を活写する。[口絵32頁]
20世紀を変えた文化事業の歴史
スイスのボーリンゲン村を隠棲の地としたC・G・ユングは、心理学・神話学・宗教学・図像学など様々な分野の世界的知性を集めた〈エラノス会議〉(1933年開始)で中心的役割を果たした。そのユングに傾倒したアメリカの資産家ポールとメアリー・メロン夫妻は、1942年にボーリンゲン基金を設立、学術研究の支援と出版事業を開始する。〈ボーリンゲン叢書〉はユング著作集、エラノス講義の書籍化をはじめ、ヴィルヘルム訳『易経』、キャンベル『千の顔を持つ英雄』、ノイマン『グレート・マザー』、鈴木大拙『禅と日本文化』、ゴンブリッチ『芸術とイリュージョン』、ヴァレリーやコールリッジの著作集など、数々の名著を送り出し、ボーリンゲン奨学金は広く研究者や文学者の活動を支えた。そのなかにはヨーロッパの戦乱や圧政から逃れてきた多くの亡命者も含まれる。また、エジプトやサモトラケ島遺跡などの考古学発掘調査にも資金援助を行なった。ユング、ケレーニイ、エリアーデ、ブロッホ、リード、ショーレム、ナボコフら、ボーリンゲン・プロジェクトに集う綺羅星の如き人々と、企画の実現に尽力した出版人たち。20世紀を変えた〈知〉が生成される現場を豊富なエピソードで活写した人的交流の文化史。
[原題]Bollingen: An Adventure in Collecting the Past
[著者略歴]
ウィリアム・マガイアー William McGuire
1917年、フロリダ生まれ。フロリダ大学卒業後、ジャーナリスト・編集者として活動。〈ボーリンゲン叢書〉の編集に携わり、ジョゼフ・キャンベル『千の顔をもつ英雄』など数々の名著を送り出した。英訳『ユング著作集』編集長、『フロイト/ユング往復書簡集』を編集。著書に『ボーリンゲン』(1982)など。2009年没。
[訳者略歴]
高山宏
1947年生まれ。大妻女子大学比較文化学部教授。著書に『アリス狩り』『目の中の劇場』『アレハンドリア』(以上青土社)、『近代文化史入門』(講談社学術文庫)、訳書にシューエル『オルフェウスの声』、コリー『パラドクシア・エピデミカ』、ウィルフォード『道化と笏杖』(以上白水社)、他多数。