内容説明
王族女性の苦難と栄光を体現した生涯
クレオパトラの先駆者の壮絶な生涯を追う
プトレマイオス王朝初期、一夫多妻から兄弟姉妹婚への時代を生き抜いた「クレオパトラの先駆者」アルシノエ二世の壮絶な生涯を追う。
「アレクサンドロス大王死後の激動と転変の中からヘレニズム世界が創造されるありさまを女性の目で見つめるのに、彼女よりふさわしい人物は他にいない。」(訳者あとがきより)
アルシノエ二世は、初期ヘレニズム時代における王族女性の苦難と栄光を一身に体現した人物である。アレクサンドロス大王の死後、後継将軍たちが互いに抗争しながら独自に王国を建設していった当時、王権は一夫多妻制をとりつつ明確な王位継承原則をもたなかったため、息子たちの間で継承をめぐって激烈な争いが起こった。アルシノエ二世は三度の結婚のうち二度でそうした争いの渦中に置かれ、息子を目の前で殺される。ようやく安定と栄光を手にすることになる三度目の結婚相手は、実の弟、プトレマイオス二世であった。両親を同じくする同士の結婚はギリシア世界ではタブーでありながら、二人はなぜこの特異な結婚にふみ切ったのか。著者は倫理的偏見を廃した上で、これをアルシノエ二世の生存戦略という観点から解明していく。
生前に神格化されたアルシノエの祭祀は、エジプトにおけるギリシア人とエジプト人の新しい絆となった。そしてアルシノエの地位と権力、その表象は、マケドニアおよびプトレマイオス王国の王族女性の歴史で大きな転換点となり、あのクレオパトラ七世にも影響を与えたのである。
[目次]
系図 リュシマコス家の婚姻関係/プトレマイオス家初期の婚姻関係
地図
史料略号と本文中で引用された古代作家一覧
序章
第1章 アルシノエの背景と少女時代──前三一八/一四~三〇〇年
第2章 リュシマコスの妻アルシノエ──前三〇〇頃~二八一年
第3章 アルシノエとプトレマイオス・ケラウノス──前二八一~二七九~二七六年
第4章 エジプト帰国とプトレマイオス二世との結婚──二七九~二七五年
第5章 プトレマイオス二世の妻──前二七五頃~二七〇年(二六八年)
第6章 死後のアルシノエ
主要人物一覧
補論 アルシノエ二世の経歴に関する史料とその評価
年表
用語集
謝辞
訳者あとがき
参考文献
訳註
原註
索引
[原題]Arsinoë of Egypt and Macedon: A Royal Life
[著者略歴]
エリザベス・ドネリー・カーニー Elizabeth Donnelly Carney
アメリカ、クレムゾン大学教授。古代マケドニア女性史研究の第一人者で著書は他にWomen and Monarchy in Macedonia (2000)、Olympias:Mother of Alexander the Great (2006)、King and Court in Ancient Macedonia:Rivalry, Treason,and Conspiracy (2015、論文集)がある。
[訳者略歴]
森谷公俊(もりたに きみとし)
1956年生まれ。帝京大学文学部教授。専門は古代ギリシア・マケドニア史。著書に『アレクサンドロス大王 東征路の謎を解く』『図説アレクサンドロス大王』(以上、河出書房新社)『アレクサンドロスの征服と神話』(講談社学術文庫)など多数、訳書にプルタルコス『新訳アレクサンドロス大王伝』(河出書房新社)がある。
*略歴は刊行時のものです