内容説明
水族館劇場 桃山邑氏推薦!
「この世界」を組み替えるためのアート
サーカスという現象は、ロシアや西欧の文化のなかでいかに表象されてきたのか。博覧強記の著者による類まれなる「サーカスの文化史」。[口絵16頁]
「サーカスは、失われし神話を世界にとりもどすことにより、想像可能なもの、象徴的なものを再活性化し、個々人すべてにおいても、日常性そのものにおいても、奇蹟的なるものがあらわれる可能性を高めている。要するに、文化史上のさまざまな時代(啓蒙、実証主義、社会主義リアリズム、その他)やさまざまな歴史上の時期において、じつに多様な現象に及んでいった脱神話化過程も、世界の神話的知覚と宇宙の基本元素の神話的意味づけに関心をいだくサーカスには、一度も及んでいないのである。」
(第1章「サーカス空間のダイナミズム」より)
水族館劇場・桃山邑氏推薦!「死さえも、もてあそぶ――火吹き、鞦韆、獣たち。神話を甦らせる始原世界はサーカス天幕のなかにある。わたくしたちが藝能の本体と呼ぶ流浪の魔術的空間を、あらゆる資料を博捜して描いた一大文化史」。
文学、思想、美術、演劇、映画、アニメーション……あらゆる領野に遍在する「サーカス的なるもの」。本書は、その根源と彼方に向かい、文化史を書き換える未曾有のサーカス論である。これらの領野にみられる身体行為とサーカスのかかわりを、縦横無尽に論じてみせるこの博覧強記の著者は、幼少期をカブールで過ごし、放浪サーカス芸に親しんだことが、本書を書くきっかけになったと語っている。とはいえ、本書はたんにサーカスという芸術(アート)を礼賛するものではない。著者は、サーカスがいにしえより有する「バランスの力学」と「ノマド性」を強調し、「サーカスこそが今日の文化や社会を見直し、改変するためのモデル、世界を変えるためのモデルになりうることを、サーカスのさまざまなジャンルや演目を例に引きながら立証しようとしている」(「訳者あとがき」より)のだ。図版多数収録。
[目次]
まえがき
序 サーカスにおけるバランスの力学
第1章 サーカス空間のダイナミズム
1-1 サーカス――非定住文化
1-2 *Vertmen: サーカスの神話的根源
第2章 人間と動物の共生
2-1 サーカス芸術における生命(せいめい)中心(ちゅうしん)主義(しゅぎ)の表象
2-2 サーカスにおける動物演劇化
第3章 アヴァンギャルドとサーカス
3-1 未来派と転移のファクトゥーラ
3-2 (ポスト)革命期の社会文化空間における「文化の分子」としてのサーカス
第4章 サーカスと権力
4-1 ソヴィエト・サーカス――脱構築「工場」
4-2 サーカス的曲芸と、ソヴィエト無声映画のニュー・ヒーローの身体コード
4-3 クレクス、フェクス、ペクス(フェクスのエクサントリック映画における手品と手品師について)
第5章 飛翔・変容する身体
5-1 人間大砲
5-2 幻想的・夢幻的パントマイムから現代アニメーションへ
5-3 ロシアの見世物文化における「呑みこみ芸人」について
結語 CIRCUS FANTASTICUS
原註
訳者解題
文献一覧
人名索引
[原題]Цирк в пространстве культуры
[著者略歴]
オリガ・ブレニナ゠ペトロヴァ Ольга Буренина-Петрова
幼少期をカブールで過ごし、放浪サーカス芸に親しむ。ロシア科学アカデミー言語学研究所(サンクト・ペテルブルグ)で研究員をつとめたのち、1996年よりドイツ在住。現在はチューリッヒ大学スラヴ学研究所特別研究員、コンスタンツ大学講師。著書にСимволистский абсурд и его традиции в русской литературе и культуре первой половины XX века (『20世紀前半のロシア文学・文化における象徴主義的不条理とその伝統』、2005年)があるほか、文学研究、哲学、芸術理論、文化学、記号論などのアプローチを用いた論文多数。
[訳者略歴]
桑野隆(くわの・たかし)
1947年生まれ。東京外国語大学大学院(スラヴ系言語)修了。元早稲田大学教育・総合科学学術院教授。専攻はロシア文化・思想。 著書に『20世紀ロシア思想史――宗教・革命・言語』(岩波書店、2017年)、訳書にクズネツォフ『サーカス――起源・発展・展望』(ありな書房、2006年)などがある。
*略歴は刊行時のものです