内容説明
「翻訳」という事象の広がりへ
最新の翻訳研究(トランスレーション・スタディーズ)ではなにが論じられているのか? これ1冊でひととおりわかる! やさしい入門書。
「バベルの呪い」は呪いなのか?
最新の翻訳研究(トランスレーション・スタディーズ)ではなにが論じられているのか? 本書では、「グーグル翻訳は原文の等価物か?」「『直訳』『意訳』という二分法は正しいのか?」といった身近な問題から、文学作品が翻訳を通じて新たな力を獲得しうるという「翻訳の詩学」と著者が呼ぶものまで、「翻訳translation」という事象が含む論点の広がりが一望できるようになっている。
わたしたちが他者とコミュニケーションするにあたって、言語が重要な媒体としてあらわれる以上、「翻訳」を避けて通ることは不可能だ。著者に言わせれば、翻訳とは、言語や文化が接触するところにかならず生じるものであるためだ(それは必ずしも「外国語」や「異文化」に限らない)。翻訳は、言語や文化がはらむ差異の存在をあばきながら、その差異を楽しませてくれる。著者がくりかえし強調する点はここにある。
マンガの翻訳やアニメのファンサブ、特異な「翻訳」として近年注目を集めている「漢文訓読」など、日本の読者にとって親しみやすい例が挙げられているのも本書の魅力。さらに、訳者による、日本の読者むけの読書案内を巻末に付した。
[目次]
訳者まえがき
i
交わる言語 >立ち読み(PDF)
翻訳ってなんだろう/言語と言語のあいだの中立地帯(ノーマンズランド)/外交翻訳/クラウド翻訳/数えてみましょう
ii
定義
翻訳(トランスレーション)を翻訳する/別のことば/翻訳が言語をつくる/あらゆるコミュニケーションは翻訳か?
iii
ことば、コンテキスト、目的
翻訳はことばの意味を訳すのか?/コンテキストのなかのことば/目的/字幕、戯曲、広告の目的
iv
かたち、アイデンティティ、解釈
アイコン/コミックスと詩形/アイデンティティ/ひとつの解釈
v
力、宗教、選択
解釈の帝国/遅効性翻訳/神のことば/聖なる本/さいなむ検閲/翻訳の重責/有力な選択肢
vi
世界のことば
ブック・トレード/公式ルート/グローバル・ニュースのハイウェイ/機械、規則、統計/メモリ、ローカリゼーション、サイボーグ/クラウド翻訳、非正規流通(ブートレッグ・トレイル)、グローカル言語
vii
翻訳的文学
国民文学/多言語創作/トランスラテラチャー/翻訳の劇場/ふたつの未来
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日本の読者むけの読書案内
訳者解説
引用クレジット
図版一覧
索引
[原題]Translation: A Very Short Introduction
[著者略歴]
マシュー・レイノルズ Matthew Reynolds
オックスフォード大学教授。専門は英文学。著書にPoetry of Translation: From Chaucer & Petrarch to Homer & Logue (『翻訳の詩学――チョーサーとペトラルカからホメロスとローグまで』、2011年)がある。翻訳に関する仕事にDante in English(『英語におけるダンテ』、2005年、共著)、Oxford History of Literary Translation in English Volume 4(『オックスフォード版文芸翻訳の歴史』第4巻、2006年、共著)があるほか、オックスフォード=ワイデンフェルド翻訳賞の審査委員長もつとめた。
[訳者略歴]
秋草俊一郎(あきくさ・しゅんいちろう)
1979年生まれ。東京大学大学院人文社会系研究科博士課程修了。博士(文学)。日本学術振興会特別研究員、ハーヴァード大学研究員、東京大学教養学部専任講師などをへて、現在、日本大学大学院総合社会情報研究科准教授。専門はナボコフ研究、比較文学、翻訳研究など。著書に、『ナボコフ 訳すのは「私」――自己翻訳がひらくテクスト』(東京大学出版会)、『アメリカのナボコフ――塗りかえられた自画像』(慶應義塾大学出版会)。訳書に、クルジジャノフスキイ『未来の回想』(松籟社)、バーキン『出身国』(群像社)、ナボコフ『ナボコフの塊――エッセイ集1921-1975』(編訳、作品社)、モレッティ『遠読――〈世界文学〉への挑戦』(共訳、みすず書房)、アプター『翻訳地帯――新しい人文学の批評パラダイムにむけて』(共訳、慶應義塾大学出版会)など。
*略歴は刊行時のものです