内容説明
それでも「共にある」ために……
自身も被災した都市社会学者が、コミュニティに分け入り、行政の復興政策から零れ落ちる被災者の営みを追いかけた十年の記録。
〈小文字の復興〉という視座
二〇一一年夏、ふとしたことで、会津若松市にある大熊町被災者が寄り集まる仮設住宅を訪ねることになった。それから隔週で通うようになって九年―。
その間、あるときは被災者と寝食をともにしながら、またあるときは被災者にとって慣れない雪かきや雪下ろしを手伝いながら、被災者の発する言葉に耳を傾けてきた。
途中で、家族が離散するのにいくつも出会ったし、急に逝ってしまった人を野辺送りすることもあった。出会いと、その何倍もの別れがあった。
被災地の外側では、「忘却」に象徴的にみられるような社会的暴力状況が深くおぞましく進行している。
いつごろからだっただろうか。被災者に寄り添うかたちで、「大文字の復興」ではなく「小文字の復興」を言うことに、著者はある種の空しさをおぼえるようになった。
「小文字の復興」という言葉が被災者に届いていないことを、深く知らされたからだという。
被災者それぞれの「生」に寄り添うということはいかにして可能なのか? 希望の「底」で問い続けた震災十年目の復興論。
[著者略歴]
吉原直樹(よしはら・なおき)
1948年生まれ。東北大学教授、大妻女子大学教授などを経て、現在、横浜国立大学大学院都市イノベーション学府・研究院教授。東北大学名誉教授。社会学博士。専攻は、都市社会学。『コミュニティと都市の未来:新しい共生の作法』(ちくま新書、2019年)、『都市社会学:歴史・思想・コミュニティ』(東京大学出版会、2018年)、『絶望と希望』(作品社、2016年)、『「原発さまの町」からの脱却』(岩波書店、2013年)