内容説明
中世写本の制作技法をカラー図版と共に解説
細密画の下絵など美しく貴重な図版79点収録
中世写本の制作にまつわる実践的技法の数々を、著者の豊かな経験にもとづく解説と美しいカラー図版を対照しながら、楽しく理解する一冊
解説を聞きながら鑑賞するような楽しみ
写本制作は盛期ルネサンスまで千数百年にわたって、多様な環境のもと、ヨーロッパの津々浦々で行なわれてきた。その特徴としてすべての事例にあてはまるものがないほどだ。本書はそんな中世の彩飾写本(彩色だけでなく金か銀が施されているものをこう呼ぶ)が作られる工程を、制作に携わったひとびとの視点に寄り添う形で、写本研究の第一人者が解説していく。
中世に使われていたインクやペンは、今日使われているものとは性質も製法も異なった。挿絵の中の写字生は現代のペンとは違った持ち方をし、文字もじっくり観察すれば、現代のアルファベットとは書き順が異なる。同様に、「挿絵のデザインは誰がどうやって決めたのか?」「インクで書き間違えてしまったら、どう対処したのか?」「羊皮紙ヴェラムの最高級品は本当に牛の胎児の皮製なのか?」といった、写本を鑑賞するうちに浮かんでくる疑問の数々が、オックスフォード大学ボドリアン図書館所蔵の写本を中心とする多数の図版とともに検討される。
西洋中世写本の愛好家にその魅力を伝えつつ、専門家にも貴重な写本の細部について、新たな世界を開いてくれる一冊。
[目次]
序
I 紙と羊皮紙
II インクと文字(スクリプト)
III 装飾と装丁
用語解説
謝辞
監修者あとがき
図版出典
精選文献目録
索引
著者紹介
中世写本の第一人者。オックスフォード大学で博士号を取得、サザビーズで中世写本部門の責任者を25年間勤めた。2000年よりケンブリッジ大学コーパス・クリスティ・カレッジのパーカー図書館特別研究員に着任、2019年に退職後、現在は同カレッジの終身研究員。他の著書に『聖書の歴史図鑑――書物としての聖書の歴史』(東洋書林)『世界で最も美しい12の写本――『ケルズの書』から『カルミナ・ブラーナ』まで』(青土社)がある。『世界で最も美しい12の写本』は「ウルフソン歴史賞」と「ダフ・クーパー賞」をダブル受賞した。
監修者紹介
美術史家、立教大学文学部キリスト教学科教授。ローマ大学大学院に留学後、2000年に東京藝術大学美術研究科博士後期課程修了、博士(美術)。編著に『ヨーロッパ中世美術論集1 教皇庁と美術』(竹林舎)、共著に『西洋美術の歴史2 中世I――キリスト教美術の誕生とビザンティン世界』(中央公論新社)、訳書に『世界で最も美しい12の写本――『ケルズの書』から『カルミナ・ブラーナ』まで』などがある。
訳者紹介
大阪外国語大学英語科卒、翻訳家
主要訳書 ベロス『世紀の小説『レ・ミゼラブル』の誕生』、ハ・ジン『すばらしい墜落』(以上、白水社)、モガー『チューリップ・フィーバー』(河出文庫)、ステイス『ミスフォーチュン』(早川書房)、ヴァルグレン『怪人エルキュールの数奇な愛の物語』(ランダムハウス講談社)ほか。