内容説明
天才詐欺師とその甥の数奇な人生の物語
天才的な贋作画家がバルカン半島の某公国を巻き込み実行した大計画の顛末は? 現実と虚構の境界を軽妙に突く傑作コミックノヴェル。
金持ちで蒐集家のおばに引き取られたアントンは十五歳で絵を描きはじめた。完成した絵は不謹慎な題材でおばの不興を買ったが、屋敷を訪れたローベルトおじは絵の勉強を続けるよう激励する。実はこのローベルトこそ、バルカン半島の某公国を巻き込み、十七世紀バロック絵画の架空の巨匠をでっちあげて、世界中の美術館や蒐集家を手玉に取った天才詐欺師にして贋作画家だった。十七歳になったアントンはおじの待つ公国へ向かったが、そこでは予想外の運命が彼を待っていた……。虚構と現実の境界を鋭く軽妙に突く諷刺小説であり、芸術小説でもある本書は、一部の幸福な読者によって秘かに偏愛されてきた。戦後ドイツ文学に異彩を放つゲオルク・ビューヒナー賞作家の知られざる傑作。「これは別格の小説。何故これを書いたのは私ではないのか、考えはじめると口惜しくて夜も眠れない一冊」(佐藤亜紀氏)。
[著者略歴]
ヴォルフガング・ヒルデスハイマー(1916-1991)
ドイツの作家・劇作家。ハンブルクで生まれる。パレスチナとロンドンで工芸、室内装飾、絵画、舞台美術等を学ぶ。第二次大戦後、ドイツで文筆活動を開始し、〈47年グループ〉のメンバーとして、小説、エッセー、戯曲、ラジオドラマ等の分野で活躍した。1952年に第一短篇集『愛されぬ伝説』、53年に長篇『詐欺師の楽園』を発表。1966年、ゲオルク・ビューヒナー賞受賞。他の邦訳に『眠られぬ夜の旅 テュンセット』(筑摩書房)、『マルボー ある伝記』(松籟社)、『モーツァルト』『モーツァルトは誰だったのか』(白水社)などがある。
[訳者略歴]
小島衛(こじま まもる)
ドイツ文学者、京都大学名誉教授。1928年旭川市生まれ。京都大学文学部卒業。北海道大学助教授などを経て、京都大学教養学部教授。92年定年退官。2001年死去。著書に『ミュンヘンの光と影の中で』(PHP研究所)、訳書にノサック『幻の勝利者に』(新潮社)、『リルケ名詩選』(大学書林)、『リルケ全集』(共訳、河出書房新社)など。