内容説明
いくら繁栄しても何かが足りない。
拝金主義のはびこる中国で、季節ごとの伝統行事を実践し、古くからの習慣や信仰を守る人びとの生活に密着した傑作ノンフィクション。
宗教と伝統行事を通して見えてくる中国社会の姿
弾圧から緩和、引き締め、そして包摂へ―毛沢東以来、共産党支配下における政治と宗教の関係は常にある種の緊張状態にある。本書は、この緊張状態の根源にあるものを掘り起こし、信仰と伝統行事のあり方を通して中国社会のもう一つの姿を描いたノンフィクションである。
物質的な欲望と拝金主義にまみれ、もはや伝統的な信仰心など消えてしまったかのように見える中国社会だが、旧暦に基づく季節の行事や古くからのしきたりが今も脈々と息づいている。いくら繁栄しても何かが足りない―その何かを求めて多くの人びとが信仰や伝統行事に目を向け実践するありさまを描くため、著者は約一年半、こうした活動に携わる家族や団体などと行動をともにしてきた。各種の行事を観察し、ときには自ら瞑想法・呼吸法の講習会に参加する。登場するのは、妙峰山の参拝客を相手に香会を営む倪家、農村で道教の儀式や占いをする李家、地方都市で地下活動を続ける牧師など、さまざまなバックグラウンドを持つ人びとである。
本書は二十四節気に沿った章立てで、季節の移り変わりとともにストーリーが立体的に展開する仕組みとなっている。海外の主要紙誌が絶賛した傑作だ。
[目次]
主な登場人物
地図
第一部 月の暦
1 北京──鳴る鐘
2 しきたり──失われた中心
3 山西省──最初の夜
4 成都──衛ウェイおばさん万歳
第二部 啓蟄 虫たちの目覚め
5 しきたり──過去の目覚め
6 北京──説明などできない
7 しきたり──かごの中の師
8 実践──呼吸を学ぶ
第三部 清明
9 しきたり──殉難者たち
10 山西省──埋められた書物
11 成都──聖金曜日
12 北京──山に参る
第四部 芒種
13 成都──朗誦
14 実践──歩くことを学ぶ
15 しきたり──新星
16 北京──花の老婦人
17 山西省──神聖なるものの源
第五部 中秋
18 実践──座ることを学ぶ
19 北京──聖なるスラム
20 しきたり──新しい指導者
21 成都──新カルヴァン主義者
第六部 冬至
22 実践──月を追う
23 山西省──都会人
24 北京──偉大な隠遁者
25 しきたり──東方の稲光
26 成都──イエスを探す
第七部 閏年
27 しきたり──かぐわしい夢
28 成都──都に入る
29 山西省──鬼葬
30 北京──妙なる峰
あとがき──天を求めて
謝辞
訳者あとがき
原注
参考文献
転載許諾に関する謝辞
[著者]
イアン・ジョンソン Ian Johnson
1962年、カナダ・モントリオール生まれ。ベルリン自由大学で修士号を取得。米外交問題評議会のシニアフェローを務め、『ニューヨーク・タイムズ』『ニューヨーク・レビュー・オブ・ブックス』などに定期的に寄稿。また、中国についてメディアや一般向けに精力的に発言している。2009年から中国に滞在するも、2020年、米中関係悪化の影響で退去を余儀なくされた。2001年、法輪功に関する報道でピュリツァー賞を受賞したほか受賞歴多数。邦訳書『ワイルドグラス』(NHK出版)のほか、単著にA Mosque in Munich、共著書にOxford Illustrated History of Modern China、The Forbidden Cityなどがある。
[訳者]
秋元由紀(あきもと・ゆき)
翻訳家、米国弁護士。著書にOpportunities and Pitfalls: Preparing for Burma’s Economic Transition (Open Society Institute, 2006)、訳書にアリ・バーマン『投票権をわれらに』、マニング・マラブル『マルコムX(上下)』、コーネル・ウェストほか『コーネル・ウェストが語る ブラック・アメリカ』、ウェイド・デイヴィス『沈黙の山嶺(上下)』、タンミンウー『ビルマ・ハイウェイ』(第26回アジア・太平洋賞特別賞受賞)、ベネディクト・ロジャーズ『ビルマの独裁者 タンシュエ』(以上、白水社)がある。