内容説明
帝国の文化的・政治的首都であった、輝かしい都市の四百年
ヨーロッパの文化的首都の四~九世紀を語る
中世キリスト教世界の成立に決定的な役割を果たした地中海都市の歴史を、主要な人物と美術の分析をまじえて描く。ダフ・クーパー賞受賞。[カラー口絵32頁]
「ヨーロッパの祖母」となった都市の盛衰
ローマ帝国の中心がコンスタンティノープルに移った四世紀末、西方に新しい都が台頭する。イタリアの都市ラヴェンナにおいて、アリウス派のゴート人とカトリックのローマ人は競って、比類なき建造物とモザイクを次々と創りだした。以来三百年にわたりこの町は、学者・法律家・職人・宗教人を魅了し、まぎれもない文化的・政治的首都となる。この特筆すべき歴史をみごとに蘇らせて、本書はイスラーム台頭以前の地中海世界の東西の歴史を書き変え、ビザンツ帝国の影響下にラヴェンナが、中世キリスト教世界の発展にとっていかに決定的な役割を果たしたのかを明らかにする。
全三七章の多くは、皇后ガッラ・プラキディアやゴート王テオドリックら支配者から、古代ギリシアの医学をイタリアに蘇らせた医師の業績まで人物に注目しつつ、多様な民族・政治宗教勢力のるつぼであったこの都市がヨーロッパの基礎を形づくっていくさまを追う。そして、都市史をより広い視野から地中海の歴史のなかに位置づける。
美しい図版と最新の考古学の知見によって、ヨーロッパと西方の文化へのラヴェンナの深い影響について、大胆かつ新鮮な解釈を提供する一冊。
[目次]
序章
第1章 西の帝都ラヴェンナの登場
第一部 390-450 ガッラ・プラキディア
第2章 ガッラ・プラキディア──テオドシウス王朝の皇女
第3章 ホノリウス帝とラヴェンナの発展
第4章 西宮廷のガッラ・プラキディア
第5章 建設者として、母として
第二部 450-493 司教たちの台頭
第6章 ウァレンティニアヌス三世と司教ネオン
第7章 ラヴェンナのシドニウス・アポリナリス
第8章 ロムルス・アウグストゥルスとオドアケル王
第三部 493-540 ゴート人テオドリック、ラヴェンナのアリウス派王
第9章 東ゴート王テオドリック
第10章 テオドリックの王国
第11章 テオドリックの外交
第12章 立法者テオドリック
第13章 アマラスウィンタとテオドリックの遺産
第四部 540-570 ユスティニアヌス一世と北アフリカ・イタリア戦役
第14章 ベリサリオス将軍のラヴェンナ占領
第15章 聖ヴィターレ教会──初期キリスト教芸術の精髄
第16章 ナルセス将軍と『国事詔書』
第17章 大司教マクシミアヌス──西方の砦
第18章 大司教アグネルスとアリウス派教会の接収
第五部 568-643 アルボイン王とランゴバルド族の征服
第19章 アルボインの侵入
第20章 ラヴェンナ総督府
第21章 グレゴリウス大教皇とラヴェンナの支配
第22章 イサク──アルメニア人総督
第23章 医師アグネルス
第六部 610-700 イスラームの拡大
第24章 アラブ人の征服活動
第25章 シチリア島のコンスタンス二世
第26章 第六回公会議
第27章 ラヴェンナの逸名世界誌家
第七部 685-725 ユスティニアノス二世の二度の治世
第28章 トゥルロ公会議
第29章 英雄的な大司教ダミアヌス
第30章 大司教フェリクス──波瀾万丈の生涯
第八部 700-769 辺境に戻るラヴェンナ
第31章 レオン三世とアラブ人の敗北
第32章 イコノクラスムの始まり
第33章 教皇ザカリアスとランゴバルド族のラヴェンナ征服
第34章 大司教セルギウスが支配権を握る
第九部 756-813 カール大帝とラヴェンナ
第35章 デシデリウス王の長い治世
第36章 イタリアのカール、七七四~七八七年
第37章 カールがラヴェンナの石を求める
終章 ラヴェンナの輝かしい遺産
謝辞/訳者あとがき
地図/索引/原註/図版一覧/ラヴェンナの政治・軍事・教会支配者
[著者略歴]
ジュディス・ヘリン Judith Herrin
1942年生まれ。初期キリスト教史、ビザンツ女性史を専攻。キングズ・カレッジ・ロンドン(ロンドン大学)の古代末期・ビザンツ学講座名誉教授。皇族女性の活躍を描いた『緋色の女性たち――中世ビザンツ帝国の支配者』は高く評価され、各国で翻訳されている。考古学・美術史にも造詣が深く、現代ビザンツ史研究の第一人者である。
[訳者略歴]
井上浩一(いのうえ・こういち)
1947年京都市生まれ。大阪市立大学名誉教授。専門はビザンツ帝国史。著書に『生き残った帝国ビザンティン』(講談社学術文庫)、『ビザンツ皇妃列伝――憧れの都に咲いた花』(白水Uブックス)、『歴史学の慰め――アンナ・コムネナの生涯と作品』(白水社)、訳書にハリス『ビザンツ帝国の最期』『ビザンツ帝国 生存戦略の一千年』(白水社)、ヘリン『ビザンツ 驚くべき中世帝国』(共訳、白水社)などがある。