内容説明
フィリピン植民地史とプレスリーの米国文化
米比戦争の虐殺事件をめぐるメタフィクション
20世紀初頭の米比戦争の虐殺事件と現代の麻薬戦争、現実と虚構、支配と被支配が交錯する。比出身作家の超絶メタフィクション長篇。
語りの実験性を駆使した、超絶メタフィクション長篇
フィリピン出身のミステリー作家兼翻訳者マグサリンは、新作小説の案を練り始める。そこへ一件のメールが届く―送信者はその小説の主人公である、映画監督キアラだった。
キアラの父親も映画監督であり、一九七〇年代にベトナム戦争中の米軍による虐殺事件を扱った映画をフィリピンで撮影したのち、失踪していた。キアラは、一九〇一年にフィリピン・サマール島のバランギガでも同様の事件が起きていたことを知り、それをみずから映画化するために、マグサリンに現地での通訳を願い出たのだ。
こうして始まった二人の旅の物語に、キアラが書いた映画の脚本の主人公、一九〇一年当時のサマール島に上陸したアメリカ人の女性写真家カッサンドラの物語が絡み合う。彼女が目撃するのは、米比戦争で駐屯する米軍と服従を強いられる島民という、支配と被支配の構図だ。マグサリンはその脚本に、実在の女戦士、フィリピン人のカシアナ・ナシオナレスを登場させる。かくして米比戦争の虐殺事件をめぐる物語は、さまざまに視点を変え、時空を超越して、交錯していく……。
フィリピン出身の作家が放つ、超絶メタフィクション長篇。
[著者略歴]
ジーナ・アポストル Gina Apostol
1963年、フィリピン、マニラ生まれ。レイテ島で育ち、フィリピン大学ディリマン校を卒業後、米国のジョンズ・ホプキンス大学大学院で創作を学んだ。
1997年のデビュー長篇『ビブリオレプシー』(Bibliolepsy、未訳)は同年の「フィリピン図書賞」を受賞。
2010年刊行の長篇第二作『ライムンド・マタの革命』(The Revolution According to Raymundo Mata、未訳) も同年の「フィリピン図書賞」を受賞。
2013年刊行の長篇第三作『武器商人の娘』(Gun Dealer’s Daughter、未訳)は同年の「PEN/オープンブック賞」を受賞。
2018年刊行の本書『反乱者』は最新作。
現在はニューヨークのフィールドストン・スクールで教えている。
[訳者略歴]
藤井光(ふじい・ひかる)
1980年、大阪生まれ。北海道大学大学院文学研究科博士課程修了。東京大学文学部・人文社会系研究科現代文芸論研究室准教授。
主要訳書:ジョンソン『煙の樹』『海の乙女の惜しみなさ』、ハージ『デニーロ・ゲーム』、プラセンシア『紙の民』、カリー『神は死んだ』、ブラーシム『死体展覧会』、ペンコフ『西欧の東』、マー『断絶』(以上、白水社)ほか。
ドーア『すべての見えない光』(新潮社)で第三回日本翻訳大賞受賞。