岡崎武志「愛書狂」第43回

 

 第一五七回芥川賞・直木賞が決まった。芥川賞は沼田真佑「影裏」、直木賞は佐藤正午の「月の満ち欠け」が選ばれた。ともに初ノミネートだが、沼田はデビュー作で受賞、佐藤は作家生活三四年というベテランという好対照が話題に。なお、佐藤は授賞式を欠席。これも異例のことである▼芥川賞は、古くは太宰治、近年では村上春樹、吉本ばななを候補に上げながら落選、という禍根を残した。島田雅彦が六回の候補でついに獲れず、現在、芥川賞選考委員を務めているのは有名な話。芥川賞は神ではない。いろいろ取りこぼしがあるのだ▼一人出版社の雄・夏葉社の新刊が、山本善行撰『埴原一亟古本小説集』。この忘れられた作家は、一時期古本屋を営んでいた。建場でゴミの中から古本を選り分ける。露店で妻が売る。店を持つが家賃が払えない。情けないどん底生活に、世の中を観察する目が光る。埴原も芥川賞三回候補の落選組▼考えたら、木山捷平、上林暁、小山清、洲之内徹、山川方夫、小沼丹、後藤明生、佐藤泰志、山田稔など、古書価が高く、古本屋で人気のある作家は、芥川賞落選組ばかり。この点で受賞者は、負け組にはかなわない▼派手さはなく、どこか心に屈託を抱え、それが作品化されても受賞には一歩届かない。しかし、届くと消えてしまう「味」が彼らにはある。負けて光る文学の土俵があるのだ。そこで提案。歴代芥川賞落選者から、未知の作家を探して読んでみよう。まだ評価は定まっていない。自分が発見し、評価するのだ。極めてスリリングな文学的冒険になるはず。 (野)

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