第33回 「ハワイ語」塩谷亨

リレーエッセイ「ことば紀行」
第33回 「ハワイ語」塩谷亨

ハワイ語

【主な使用地域】 米国ハワイ州
【話者数】 約2 千人(Ethnologue 2017 より。第一言語話者の線引きは必ずしも明確ではないため正確な数字は不明)
【使用文字】 ローマ字(ほぼ日本語のローマ字表記と対応)


街のあちこちでみかけるMahalo と書かれたゴミ箱。
もちろん「有難う」という意味であり「ゴミ箱」という意味ではない。

今を生きるハワイ語
 ハワイ語は8 世紀頃にハワイに移り住んだハワイ人固有の言語で、何世紀もの間ハワイ諸島全域で話されてきた。18 世紀末のクック船長来航により世界にその存在が知られ、19 世紀には、カメハメハ王によりハワイ王国の歴史が始まった。世界のいろいろな地域から多くの人が移り住み、日系移民の歴史もハワイ王国の時代に始まる。ローマ字を用いた文字システムも考案され、様々な書物がハワイ語により印刷され、各地でハワイ語新聞も発行された。しかしながら、ハワイ語は政治、経済、さらには教育の言語としての地位を英語に奪われ始め、19 世紀末のハワイ王国消滅、その後のアメリカ併合により、ハワイ語の衰退は加速した。ハワイ語新聞も次々姿を消していった。子供の頃にハワイ語話者であった古老の話では、当時、ハワイ語を話すのは悪いことで、話した子供には、草むしりのような体罰的なこともあったとのことだった。
 後に、ハワイ語復興の機運が高まり、1980 年代には、子供たちにハワイ語により教育を行う機関が生まれ、各地へと広がった。レベルも、幼稚園から高校へ、そして現在では、一部の大学院課程までハワイ語で教育を行う機関が存在する。全文ハワイ語による学位論文も多数存在している。留学中にハワイ語学校の授業への参加という課題が出され、何週間か小学四年クラスを訪問したことがあるが、そこでは英語を話した生徒が先生から注意されるという昔と逆の光景を目撃することができた。
 現在、ハワイ語は英語と並んでハワイ州の公用語であるが、現地の人で日常的にハワイ語を使用している人は多くはない。ハワイの大多数の人は英語で生活している。しかしながら、人種やルーツを問わずハワイに住む人にとってハワイ語は身近な存在である。さまざまな催しや儀式で全員が起立して斉唱するハワイ州歌(元々はハワイ王国国歌であった)はハワイ語の歌詞で歌われる。地元では誰でも歌えるハワイ語の歌である。また地元の人は、ハワイ語を話さない人でも、あちこちにハワイ語の単語を混ぜた英語を話す。中でもしょっちゅう耳にするのは、mahalo「有難う」や‘ono「おいしい」であろう。例えば、This is so ‘ono.「これ超うまい。」のように普通に使うことができる。少なくともこのような単語については、ハワイ語話者に限らずハワイの地元の人達みんなの財産になっているのである。
(室蘭工業大学教授)

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