内容説明
漢字も諺もおやじギャグも使いこなす!
全盲のスーダン青年が文筆家になるまで
スーダンから来た全盲の青年はどうやって日本語を身につけたのか。来日からエッセイストとしての活躍まで、悪戦苦闘の日々を語る。
スーダン出身でアラビア語を母語とするアブディン氏は、生まれた時から弱視で、12歳のころ視力を失った。19歳になるまで、教科書以外の本は5冊も読んでいないという。ひょんなことから来日した彼は、日本語の勉強を始めると、点字や朗読テープを通じて本を読むことに夢中になる。
福井の盲学校では鍼灸を学び、ホストファミリーにおやじギャグと福井弁を習った。さらに彼の世界を広げたのは、粘土を使って漢字を教えてくれたボランティアの先生だ。周囲の手を借りながら、彼はまさに手探りで日本語を習得していった。
大学進学後、友人の勧めで書いたエッセイには、諺や慣用句、日本語らしい言い回しが多用される一方、独自に編み出された個性的な表現も多い。そんな日本語の表現力を、見えない彼は一体どうやって身につけたのか。そして、実際にどうやって文章を書いているのか。
本書では、文字を失った彼が点字と出合い、日本語を習得していく過程と、のちにパソコンを通して自由に読み書きができるまでの苦闘の日々を振り返る。聞き手となるのは日本語教育を専門とする河路由佳氏。関係者のインタビューも併せ、全盲のエッセイスト誕生の背景に迫る。
[目次]
はじめに(モハメド・オマル・アブディン)
第一章 文字を知る
文字の記憶
点字との出合い
点字で学ぶ日本語
盲学校への進学
日本語能力試験を目指して
漢字の活用法
モハメド君の思い出① 高瀬公子さん
第二章 声から学ぶ
耳で聴く読書
ラジオとコーラン
夢中になった小説の世界
ラジオの愉しみ
方言を味わう
モハメド君の思い出② 荒川清美さん・義弘さん
第三章 コンピュータに出合う
筑波時代の「革命」
筑波から東京へ
パソコンの効能
読めるものと読めないもの
新たな挑戦
モハメド君の思い出③ 大森哲實さん
第四章 文章を書く
書けなかったころ
出会いに導かれて
書くことの喜びと悩み
さらなる野望
おわりに(河路由佳)
インタビューに登場した本
モハメド・オマル・アブディン年譜
[著者略歴]
モハメド・オマル・アブディン(Mohamed Omer Abdin)
1978年、スーダンの首都ハルツーム出身。生まれた時から弱視で、12歳の時に視力を失う。19歳で来日し、福井県立盲学校で鍼灸を学んだのち、東京外国語大学へ進学。スーダンの南北紛争について考察するため、アフリカ地域研究の道へ。同大学大学院に進み、2014年に博士号を取得。東京外国語大学世界言語社会教育センター特任助教、学習院大学法学部特別客員教授を経て、現在、参天製薬株式会社に勤務する傍ら、東洋大学国際共生社会研究センター客員研究員として研究を続ける。また、エッセイスト、特定非営利活動法人スーダン障害者教育支援の会(CAPEDS)代表理事、ブラインドサッカーの選手としても活躍している。
著書:『わが盲想』(ポプラ社)
[聞き手・構成]
河路由佳(かわじ ゆか)
1959年生まれ。杏林大学外国語学部特任教授。専門は日本語教育学、日本語文学。
主要著書:『日本語教育と戦争 「国際文化事業」の理想と変容』(新曜社)、『ドナルド・キーン わたしの日本語修行』(共著、白水社)